- 作者: 南伸坊
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1997/04
- メディア: 文庫
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そんな俺が本書を読んだのである。そして大いに勇気づけられたわけである。作者は「面白ければいいんだ、面白ければ」と連呼するだけでなく、「ゲイジュツを神格化する必要はない。自由に見て感じればいい」「こういう考え方もエライ、それを否定する考え方もエライでいいんでないの。みんな同じもの見て同じもの買って何がオモシロイの」「いくら先人が築き上げた伝統的な文化だって、やっぱり慣れたら面白くなくなって、新しくておかしなものに目がいっちゃうでしょ」等の言葉と共に実に自由にそれぞれのゲイジュツを鑑賞なさっているのである。「ホンモノだろうがニセモノだろうが俺はこの絵が気に入ったんだからそれでいいじゃん」「わけのわからないモヤモヤ感を出したくてこんな絵を描いているんだから、見てるこっちもわけのわからないモヤモヤ感を感じるのです。それだけです」「バカバカしくて何の役にも立たないようなことをするのがゲイジュツなのである。それを社会や常識と折り合いをつけようとするから中途半端なものになるのである」「このケツのところの、こ、このカーブがいいねえ」「コレッジオさんは、S趣味なのかね、M趣味なのかね、刺す方が好きなのかね、刺される方が好きなのかね」「ナウいはいい。よくわかんないけど、とにかくいい」…。
昭和軽薄体の一人に数えられる作者はもちろん既成の美術作品・芸術作品を馬鹿にしているわけではない。読んでいて印象深いのは作者がそれはもう色んな美術館や展覧会に行って、でも一体何がいいのかよくわからなかったりすごくいいと思うんだけどでも何がいいのかわからないんでうーん困った、という風に戸惑い真面目に一生懸命考えるところである。作者はあらゆる絵や写真や彫刻や意味不明の現代芸術に接し、「こういうビョーキな絵を健康な人が見ることが芸術なんだろうなあ」「何をやってもいいし、何をやっても叱られないし、叱る人がいたところで構わないんだな」「つまらないことや面白いか面白くないかよくわかんなくても、それを突き詰めて突き詰めていくところに芸術の醍醐味があるんだな」と軽妙な語りでもって常に勉強していくのである。これは非常に好感が持てる。ちょうど俺がありとあらゆる本を読んでいるように。違いますか。
そして結局は「世の中には色んな人がいて、色んな芸術があって、それぞれ喧嘩したり悪口言い合ったりしてるけど、みんな面白い。その『面白い』と感じる心をいつまでも大事にしておこう」と、何というか非常に教科書的・優等生的な結論が導き出されるわけであります。ありゃりゃ。まあそんなもんなのである。そうだ、俺が芸術とは何か?と聞かれたらこう答えよう。「芸術とは色々あって、みんな面白くて、つまりそんなもんなのである」と。うーん、優等生的ですな。というわけでまた来週。