オフレコ!別冊 小泉官邸の真実[アスコム]

オフレコ!別冊[最高権力の研究] 小泉官邸の真実 飯島勲前秘書官が語る!

オフレコ!別冊[最高権力の研究] 小泉官邸の真実 飯島勲前秘書官が語る!

 さて小泉政権の時代というのは今や近くて遠い時代となった。その後の政治・経済情勢があまりにめまぐるしく動くものだから(というか政権交代が現実のものとなってしまったから)、あの5年5ヵ月が妙に遠く感じるのは俺だけではないはずだ。2001年から2006年、俺にとっては18歳大学生から23歳社会人までという青春の絶頂期でもあったあの時代は一体何だったのか。本書は毎度お馴染みの田原総一朗が、飯島勲・総理大臣首席秘書官小泉政権について丸々一冊分話を聞くという、言ってみれば「超特大カレー」のような俺にとっておいしいのがわかりきっているものなのである。例えがわかりにくいな。
 何と言っても俺が知りたいのは、5年5ヵ月に及ぶ権力闘争に小泉が勝ち続けた理由である。我々国民も、当時は「小泉政権にとって痛手」「小泉政権の危機」などと口にしながらもこの政権がそんなに簡単に潰れるわけがないと思っていた。しかしながら「根回しをせず、徹底的に情報開示し、知らないものは知らないとはっきり言う男」が首相となったのであるから、旧来の自民党政治の面々にはさぞかし不快な場面が多々あったに違いない。「自民党を変える、自民党をぶっ壊す」とまで言われたのであり、無傷ですむはずがない。しかし小泉は勝ち続けた。
  
田原 党の猛反対をどう封じ込めたか?
飯島 それは、人事権をすべて小泉が一人で握ったということです。
田原 あ、そうか。
飯島 与党のポストも全部。
田原 かつて内閣を作るときや改造をするときは、大臣も党三役も、各派閥から人間をもらって、首相はそこから選んだわけですね。しかし、小泉さんは派閥に一切相談せず、閣僚から役員まで決めたと。
飯島 審議会もそう。党の役職も三役だけではなく全部。委員もです。小泉の了解なしに決めたポストは一つもないんです。だから、小泉の言うことを聞かざるを得ないでしょう。
   
 うーん、なるほど。人事権か。「権力にとって人事権こそ最大の力の源泉」とはよく聞くが、まさしくその通りなわけか。
 しかし本書中で最も勃起したのは、やはり郵政解散前後の様子である。小泉政権最大のピンチであったのに気が付けば最大のチャンスとして終わってみれば与党で衆議院の3分の2を獲得するという歴史的な大勝であった。
    
田原 あの時、8月6日の土曜日の夜でした。森喜郎さんが首相公邸を訪ねて、小泉さんと、わりと長時間会いましたね。森さんは、「解散なんてするな」って言うんですね。
飯島 ええ。
田原 要するに森さんは、郵政民営化法案は継続審議でいいじゃないかと言った。しかし、小泉さんは、断固として解散だ、と。たぶん森さんたちは、衆議院を解散したら負けると思っていたんじゃないですか?
飯島 いや、小泉以外の政治家を擁立する政権を狙っていたはずなんです。だから小里貞利を中心に、綿貫民輔亀井静香森喜朗古賀誠とか、全部集めていたんです。各派の領袖クラス、8人くらいの名前が挙がっていましたけど。
田原 そんなことがあったんですか?
飯島 あれは土曜日の午後だったと思いますが、私は小里さんと会った。会館は休みで誰もいませんでしたが、小里事務所で2時間近く、色々話したんです。そのとき小里さんは、民営化法案を否決されたら小泉は解散すると悟ったんでしょう。二度までも「息子を頼む」と言っていました。要するに、そういうことで、小里さんは途中でさっき言ったメンバーを集めるのをやめた。小里さんじゃなければ集めることができなかったそのメンバーが、まとまらなくなるんです。成立しなくなる。
田原 小里さんの引退表明は8月9日ごろだったと思うけど、そこで引退を決めていたんだ。
飯島 そう。そのあと武藤嘉文さんも引退して、息子を出すことになったんです。
田原 その実力者たちが考えていたのが、福田政権?
飯島 私の勝手な解釈を言えば、彼らは民営化法案を秋まで引き延ばす。継続で。継続の了解を小泉から取ることができれば、継続中の小泉内閣を潰す。これで民営化法案は不成立で終わる。これが彼らの考え方、最大のシナリオだったと思います。
田原 なるほど、そういう仕掛けか。
飯島 秋まで継続させた後、小泉内閣を潰して誰か別の人でいくというのを狙ったはずなんです。
田原 あ、そこで福田康夫政権。それがシナリオだった。
飯島 私は具体的な政権の名前までわかりませんが、ともかくその集まりがうまくいかなくなった。全部ダメになったところで、最後に某議員が乗り込んできたわけです。小泉のところに。
田原 そうですね。しかし、後の祭りだった。
飯島 そして、カンカンになって怒って帰った。その日の夜に、森さんは首相公邸に来るわけです。
 
 いかん、ダラダラと書いてしまったがとにかくこういう風に実に率直に当時の修羅場が語られるわけである。変態、じゃなかった大変興奮します。もちろん飯島は小泉側の人間であるからそこには過大評価や事実の脚色があるに違いないが、そのあたりは田原も慣れたもので的確に話題を転がしながら政権の内実にせまっていくわけである。いやもう本当に時間を忘れて一気に読んでしまった。やっぱり政治って面白いですねえ。