2009夏

 またしてもこの時がやってきた。永田町・神保町・秋葉原門前仲町と日本の中枢(門仲はどうでもいいが)を個別撃破するという大イベントが今日行われたのであり、これが都議選・総選挙に与える影響は計り知れないわけであるから諸君も固唾をガブ飲みして見守っているわけだが毎度のことながら前日は飲んでいたわけである。いや俺は酒が飲めんのだが酔っ払いを相手に一人黙々とコーラを飲み飯を食っていただけで、もちろんお代の方は酔っ払っている先輩達に任せればよい。グダグダと話す先輩達の愚痴やら説教やらはもちろん右から左に流そう。最近気が付いたのだが、常に黙って耐えていれば向こうの方から自滅するのであって、結局自分はどういう人間で何が好きで何が苦手かを認識することが大事というわけですな。というわけで俺はどういう人間かというと永田町神保町秋葉原門前仲町を自転車で走り回って狂ったように喜ぶ奴ですので最低の変態と呼べばいいではないか。
 昼の十二時ちょうどに家を出て、自転車のタイヤの空気を入れて道を歩く女をナンパして晴海通を走ればあっという間に歌舞伎座・銀座・有楽町、道行く女たちの黄色い淫らな声援を振り切って永田町。



 やはり都議選前からなのか国会議事堂前はいつもより警官が多い。そう言えば日本の警察は人海戦術が得意と聞いたことがあるぞ。さすれば当然俺にもSPがついて然るべきではないかなどと言うのも最近は阿呆らしくなってきました。もう26歳なんだよなあ。というわけでいつものように国会図書館に着きます。

 新館の喫茶店に入り、いつも俺はカレーを食うのだがメニューを見ると「カレーセット」なるものがあったので店の人にそれを頼むと「ジュウシコクマイ(?)にしますか、白いお米にしますか」と言われたのでキョトンとしていると向こうもキョトンとしているので「んんあ?」と思わず裏声で聞き返し、同じことを言われたので「こ、こ、米で」とまた裏声で答えると「コーヒーと紅茶どちらにしますか」とまた聞かれ、「コーラ、いやコーヒー」と答えた。もうね、何がしたいんでしょうね俺は。ちなみにセットと言いながらカレーについてきたのはちんまりとした皿に申し訳なさそうに入っているサラダだけだった。カレーのライスの量も少なく大食漢である俺はペロリと平らげたが、コーヒーを飲むのにかなり時間がかかった。それはそうだ、カレーにコーヒーは似合わない。うまくいかんものですなあ。
 気を取り直して新聞資料室に行き、ゆるいぬるい過去に浸って癒されようというわけで今回は30年前の1979年6月と20年前の1989年6月にタイムストリップである。1979年では「週休二日制に向け準備へ」「航空機疑惑(いわゆるグラマン事件)で国会空転」「6月14日、国会閉会」「6月28・29日、東京サミット開催」といった記事が目につき、下の三行広告のところに「SFアドベンチャー」があったり映画宣伝のところに「サタデー・ナイト・フィーバー」があったりしていいなあ俺もこの時代に26歳だったらなあどれだけ楽しかっただろうなあと嫉妬した。続く1989年6月では「宇野内閣発足」「北京で市民と軍が衝突(天安門事件)、死者少なくとも150人以上」「美空ひばり死去」「新潟参院補選で社会党候補勝利、都議選・参院選に影響か」といった記事があったりコミケが紹介されていたりした(「展示会に10万人」「漫画家ゴッコの時代」)。いいなあ俺もこの時代に26歳だったらなあどれだけ楽しかっただろうなあと嫉妬したが、まあ思うだけですよ思うだけ。それぐらいいいでしょう。ちなみに俺の机の向かい側には大学生と思われるカップルがいて、男の方はともかく女の方は扇子を逆さにしたような輪郭をしていて怖かった。
 その後、新館2階の隅の方にあるソファーでいつものように読書に勤しむが、三つあるソファーのうち一つでは40代後半と思われる白髪の男が横になって盛大に鼾をかいていて、もう一つのソファーでは20代後半と思われる男と30代後半と思われる肩を露出させた薄着の女が座っていた。男は携帯電話をいじり、女(厚化粧の上にブサイク)は男の腕や胸をペタペタといやらしい手つきで触っていた。そして残るソファーに座った俺は珍しく寝ることもなく本を読み続けた。一体何だねこの空間は。俺が狂っとるのか俺以外の奴が狂っとるのか最近よくわからんよ。
 16時となり、国会図書館を爆破処理して次に向かうは神保町である。三宅坂で女をナンパして大英帝国大使館に亡命して靖国神社南門前の交差点を通るとインドのあのヒラヒラの服を着た太ったインド人女三人のうち一人が俺を見て「ハーイ」と言った。いや、これ本当。あれは何だったのですか。というわけで毎度やっております「靖国通下り坂をブレーキかけずにどこまで走行できるか」の写真である。

 この写真を撮ってすぐにブレーキをかけようとしたのだがなかなかブレーキがかからない時は非常に焦った。いや左のブレーキが少しゆるくなっていましてね、いつもは右のブレーキを使うんですが、やっぱり動転するとそこらへん忘れてしまうんですなあ。

 三省堂書店前に自転車を止めていつものように同じところだけ行きましょう。いやそれはね、「これだけ何度も神保町に行っているのに同じ店ばっかり行って、本当に行くべき店に行かないでいいのか」と2〜3年前は思っていましたがね。もう今は何とも思わんねえ。「もっとすごい、理想的な本屋があるはずだ」とか考えること自体阿呆らしくてねえ。上を見たらキリがないしねえ。何が「行くべきで」何が「理想的」なのか最近考えること自体が面倒臭くなってきました。それに価格面ではBOOKOFFに勝てないのはもう皆わかっているんだからね。大人になったのかそれとも退化したのかわからない俺がとりあえず小宮山書店のガレッジでいつものように100円で買います。

夜の虹 (講談社文庫)

夜の虹 (講談社文庫)

 俺はもっぱら「1冊:100円」コーナーに陣取っているのであの「単行本1〜3冊:500円」コーナーには見向きもしないのだが、そこに50歳ぐらいの男と20歳ぐらいの眼鏡女が話していて、父娘かと思ったが女の方が「私だって頑張りますよ」「もっとバイトして下さいね」と言っていたのであれは不倫カップルだなとしばらく見てしまう。何をやっているのですかお前は。で、次はブックス@ワンダーである。

 諸君ご存知の通りここで意味もなく惰性で新書を買うものだから俺の芸術的な購入術が陳腐なものになってしまう(BOOKOFFで新書を買おうと思っても、「新書はブックス@ワンダーで買うからやめておこう」となってしまう)ので今日は是非そのジンクスを破りたいと意気込み、実際にもう今日はこれを買おうと九割方決定していたのであるが2階に行って実際に新書コーナーに行ってみるとはて俺は何を買うのだったのかなまあ忘れるということは大したことないということだろうと結局新書を買ってしまう。まあ210円だからいいか。いやよくないか。うーん。
江戸の無意識―都市空間の民俗学 (講談社現代新書)

江戸の無意識―都市空間の民俗学 (講談社現代新書)

 わけのわからん駆け引きをやっているうちに17時15分を過ぎており、引き返してすずらん通りを歩いて三省堂書店裏の横にある古書モールに入る。いつもお世辞にも整理されているとは言えない店だが今日はまたずいぶんと散らかっておるな。昔の映画雑誌が無造作に1メートルは積み上げられている。そして店の人の電話での会話が丸聞こえである。「ああ、もう起きたんですか。早いですねえ。え。ああ、あれもう頼みましたよ。いや、何かすごい多くなったらしいんですよ。でも、いいですよ。まだ寝た方が」。嬉々として盗み聞きしている俺が買ったのはこちら。100円。
佃島ふたり書房

佃島ふたり書房

 17時50分となったので毎度のとおり三省堂書店に寄ってトイレを済ませよう。しかし本屋に行けばいやでもあの「1Q84」が目に入ってしまう。まあ俺も昔は貪るように村上春樹を読んだけどね、今はあんまり読む気がしないですなあ。高校生の頃は村上の小説に出てくる登場人物たちの「スマートでオシャレな感じ」に憧れたもんだが、今の俺は身体の隅々まで「泥臭く」なってそんな自分を肯定しておるからね。とは言うものの「真面目な読書青年」である俺はいつの日か読むでしょう。で、不倫カップルの女をナンパして次なる目的地・秋葉原へ。

 いつものように万世橋交差点で自転車を止めてさあ行こうと気合いを入れていると「ドガッシャーン!」という音と共にスクーターに乗っていた女が転げ落ちていた。自転車と衝突したらしく、その自転車の主はどう見てもアラブ系の外人であった。立ち上がった20代前半と思われる出っ歯の女はそのアラブ人を口汚く罵っているようだった(離れていたため声は聞こえなかった)が、アラブ人の方はひん曲がった自転車の前輪をさすっていて女の方に見向きもせず、女はそれにますます腹が立ったのか腕を振り回して怒りを最大限に表現しようとしていた。周りはしばらくその様子を眺めていたが、信号が青に変わると一斉に動き出し、俺もメロンブックスに向かった。本当にもう、一歩外に出れば色々なことがあるのですね。
 メロンブックスは今日も今日とて人が多く狭かった。多いから狭いと感じるのか狭いから多いと感じるのかわからぬが、やはり先週実家に帰る際に寄った三宮のメロンブックスの方がいいですなあ。いや、三宮のメロンブックスの方がずっと狭いけどね。しかしまあつまらん考えはしない方がよろしいですな。どうせあと3〜4年は東京勤務なんでしょうからな。この秋葉原ともまだまだ付き合っていくでしょうからな。うーん。そんなこんなでメロンブックスを出てとらのあなへ。

 地下・成年コミックコーナーへ参りましょう。しかしおかしいな。さっきのメロンブックスでも感じたことだが、今月の新刊は和姦系の作品がやたらと多い気がするぞ。「世界のラブコメ王」とも言われる俺は中身など見ずとも表紙を見ただけで大体内容がわかるのだが、とらのあなで見本誌を立ち読みしてやはり今回は和姦系の本が目白押しなのである。もちろん和姦であっても「主人公はスポーツ万能で社交的でさわやかな青年」であれば失格であるが、どうもそういうものも無いようなのである。いやこれは嬉しい事態ではあるが、どうしたことか。君らそんなに俺に尻尾を振って何をたくらんでおるのだ。なんか気持ち悪いなあ。というわけでこれでも買おう。18時49分、1050億円。

 続いてBOOKOFF秋葉原駅前店に行くためまた万世橋交差点まで行くとさっきの事故のためであろう警官が3人ほど話し合っていて、あの出っ歯の醜い女はいなかったがアラブ人の男がまだ自転車の前輪の壊れたライトをさすっているようだった。まあ普通バイクと自転車じゃあよほどの事がない限りバイクの方が悪いわなあ。
 BOOKOFF秋葉原駅前店は相変わらず大勢の人で、もともと棚と棚の間が狭いのに俺のようなデブが通るから余計窮屈になるのは仕方のないことなのだが6階コミック売場のB5版コーナーにいると大学生らしい男一人と女二人が話していて、どうも男の方が女二人にいじられているようであった(「勘弁してくださいよ」「どんなけ強気なんすか」「いじめないで下さいよ」)。当世風に言うところの肉食女と草食男などと言うつもりはない。高校生大学生ぐらいの男というのは女に嫌われることを何よりも恐れるからどうしても下手に出てしまうのである。まあ俺は第二次大病戦争とか色々あって早々に女の相手をすることをあきらめたが、こういう風にするから若い女というのは勘違いするのだ。大変不快である。そんな俺にはやはり風俗の女がいいわけであるが、風俗嬢にも無愛想な奴がいたりするからやっぱり二次元しかないのだよなどと関係ない話をしながらも頭の中は年末の日本ラブコメ大賞に向けて冴え渡っているのである。頭の中はそれはもうエロエロなことでいっぱい。え。
おふらいんげーむ 1 (アクションコミックス)

おふらいんげーむ 1 (アクションコミックス)

 19時31分、350円。ところでエコ何とかか知らんが最近「レジ袋ご利用ですか?」とよく聞かれるが、皆さんどうしていますか。俺は袋に入れてもらわんと買った気がしないのでいつも「袋でお願いします」と言うのだが。だってさあ、そのまま本だけ持って帰ったら万引きしたみたいでいやでしょう。先週実家に帰る際三宮の超書店MANYOに寄って本買ったら「このままでよろしいですか」って言われた時はさすがの俺もカチンと来て「いや、袋、頼むで」と言ってしまったのですが、袋もないなんて、ねえ。
 さて最後は門前仲町である。神田駅・三越東証会館・永代橋を自転車で走れば昼のあの黄色い淫乱な声援が甦る。兵庫県糞田舎から出てきた青年と東京中心部の邂逅は涙を誘う。そして門前仲町に着き、いつものように中華料理屋でラーメン半チャーハンセットを頼んで食べていると俺の席の前にいる男二人の会話が聞こえてくる。
「俺、帰る」
「え。何だよ。何で帰るんだよ」
「金、俺の分これな(立ち上がる)」
「何だよそれ。何でそんなタイミングで帰るんだよ。逃げるみたいに」
「逃げるんじゃないよ」
「だってそうだろ。逃げるみたいじゃねえか」
「(座る)あのさあ、お前が失礼なこと言うからだろ」
「何が」
「1週間ハワイに行くとか」
「だってそれ本当だろうが」
「違うよ」
「どこが違うんだよ。言ってみろよ」
「言えるかよそんなもん」
「何でだよ。言えないからいつもおかしくなるんだろ。言えよ」
 いかん、このままでは殴り合いが始まると思って急いでラーメンを腹に流し込んで店を出る。いやあ危なかった。何で俺がこんな目に遭わなければならんのかと思う前にまず安堵し、やがて何で俺がこんな目に遭わなければならんのかと怒るわけだがその前にBOOKOFF江東門前仲町店に着きましたのでもうどうでもよいのだ。俺はキチガイだが俺以外にもキチガイはいっぱいいるということだ。

 上の写真は至近距離でのBOOK・OFF江東門前仲町店であります。ああ疲れた、そして買ったのはこれ。350円、21時15分。
スイーツ! (集英社スーパーダッシュ文庫)

スイーツ! (集英社スーパーダッシュ文庫)

 というわけで今回はハプニング度が群を抜いておりました。が、これこそが本日記最大のイベントと言われる「永神秋門攻防戦」の特徴なのであります。そして非常に残念なことですが時間は止まらず、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいました。果たして俺は9月、また「永神秋門攻防戦」を行うことができるのでしょうか。生きていればできるし、死んでいればできないというただそれだけのことですな。そんなわけで皆さんまたお会いしましょう。ちなみに帰り、コンビニでアイスを買おうとコンビニに入ったら仲睦まじそうなカップルがアイス商品コーナーの前に立ってずっと話をしていて、おかげで俺はアイスを買えませんでした。死ねと思いました。