政治は踊る2009

 小沢一郎がニコニコしながら話し出す辞任会見を見て、やはりこの男は田中角栄の系譜に連なる経世会の人間だと思った。幾多の権力闘争を観察し、自身もそのど真ん中に身を投じた人間にしかできない芸当をやってのけたのである。年明け以来「民主党有利」だったのがまさかの逆転で不利になり、それを有利とは言わないまでも不利ではない元の状態に戻したのだ。これで総選挙の結果は誰にもわからなくなった。即ち政局はますます面白くなってきた。
 任期満了から半年を切った時点で検察が公設秘書逮捕に踏み切ったのは小沢を辞任させるためであった。そうでなければ二階や尾身といった自民党議員に累が及ばない理由がわからない。検察は元々小沢をピンポイントで狙っていたのである。届け出のないウラの金ならともかく、堂々と公表しているオモテの金で裁判に勝てるわけがないことも検察はわかっている。検察は盛大な花火をぶちかまし、どんな情報も鵜呑みにする間抜けなマスコミを扇動して小沢を辞めさせる気であったのだ。そうすればたとえ政権交代が起こっても代表は小沢以外の人間(与党経験のない、権力の何たるかがわからない人間)なのだから官僚の既得権益はガッチリと守ることができよう。
 だが小沢は辞めなかった。しかしながらマスコミの大批判キャンペーンは鳴り止まない。「説明責任、説明責任」と言うのみである。既にオモテの金として、政治資金として公表している以上説明責任も何もないはずだが、大手マスコミは懸命に小沢を叩いた。なぜかは俺にもよくわからない。記者クラブ制度廃止を唱える小沢が憎いのか、官僚や政府上層部とつながっているのか(新聞社の上層部は首相と定期的に懇親会を行っている)、それともスキャンダルを握られているのか(官房副長官は元警察庁長官である)定かではないが、本来なら検察の暴挙に一致団結して立ち向かうはずが逆に検察を応援するのが日本のマスコミなのであり、そのようなマスコミからの情報に影響される幼稚で低レベルな国民の一票が自分たちの政治生命を左右することも小沢はわかっている。そこで秘書逮捕から2ヵ月後に辞任したのである。
 小沢は「事件の責任を取って」辞めたのではない。「事件によって政権交代が起こらない可能性が出てきた」から辞めたのである。これによって民主党は否応無く政権交代に向けて邁進しなければならなくなった。若手は「次の次」などと悠長なことを言ってはいられない。更に総選挙までどんなに遅くても残り4ヶ月である。新代表の下で執行部が一新されても選挙実務は今までの小沢流のやり方を引き継がざるを得ない。しかし4ヶ月もあれば、秘書逮捕の衝撃を十分にかき消すことができる。何より、このまま「小沢対麻生」で選挙に突入すると思っていた自民党は虚脱状態に陥る。いや、小泉・安部・福田・麻生と目まぐるしく変わる与党の顔と対照的に、鈍牛のように動かなかった小沢が突然いなくなったことに民主党でさえも虚脱状態となり、民主党内の反小沢勢力が動く前に「選挙担当の代表代行」という最も小沢らしいポストに就いてしまった。電光石火とはまさにこの事である。久しぶりに政局らしい政局を見ることができた。
  
 たとえ衆議院民主党過半数を取っても参議院過半数がない以上自民党が巻き返しに出るであろう。逆に自民党が勝っても3分の2は確保できないであろうから結局参議院多数派の言いなりとなる。本当に重要なのは総選挙後の参議院選挙ではないかと俺は最近気付いた。俺が気付いたということは永田町の政局キーパーソンたちはとっくにそのための戦略と戦術に向け動いているということである。マスコミが伝える政局動向など所詮「話してもいい」レベルに過ぎない。政治とは国家権力をめぐる闘争なのであるから、本当に大事なことは極秘裏に進められている。それを探るのが本当のジャーナリズムであろう。俺の政局観察などジャーナリズムからほど遠いが、とにかく激動の日本政治をこれからも観察していくつもりである。