官僚支配の国

 残念ながらこの国の国家権力は官僚が握っている。今回の小沢公設秘書逮捕に端を発した西松献金事件から導き出される答えはそれしかない。官僚のトップである官房副長官警察庁の人間であり、政治資金規正法という曖昧な法律を盾にして衆議院の任期満了から半年を切ったタイミングで突如として野党第一党党首の公設秘書を逮捕した。「実質企業献金でありながら、政治団体からの寄付だとして処理した」から違法だという。しかしこれがおかしな理屈であることは少し政治をかじったものならばすぐ気が付くはずだ。企業が政治団体を隠れ蓑にして献金するのは企業献金が禁止されている以上当たり前であって、日本は政治活動の自由が保障されている民主主義国家なのだから何ら不思議ではない。そして裏に企業がいようがいまいが政治団体からの寄付として処理されそれがオープンにされているのだから問題がないことは常識である。しかしそこでマスコミは「そんなに金を集めてけしからん」と感情論に走り、検察の論理の曖昧さには深く言及しないわけである。何のことはない、マスコミは官僚に誘導されているのだ。
 まず最初に「小沢秘書逮捕」の一報が入る。マスコミは騒ぐ。「関係者の証言によると」という表現で検察は情報をリークし、マスコミは裏も取らずに報道する。無知な国民とそれに歩調を合わせるマスコミは「そんなに金を集めてけしからん」と言う。その間ももちろん検察はリークするだけで記者会見を開いて説明などしないし、「検察が動くからには確かな証拠がある」「検察は正義の味方」という変な信頼感が国民にはあるから潔白を主張する小沢に胡散臭さを感じる。これで民主党が選挙に負ければ官僚にとっても自民党にとっても万々歳だし、もし代表が岡田に代わって民主党が選挙に勝ったところで小沢以外の人間であればどうにでも転がすことができるわけである。恐ろしい話だが、これは本当であると自信をもって言える。何せこの国は明治維新以来官僚が支配してきたのだ。
 しかしながら彼ら(官僚及び官僚に操られている自民党)は気付いているのだろうか。例え今度の総選挙で自民党が勝つにせよ3分の2を越える議席数を獲得することは絶対になく、そうすると来年夏の参議院選挙まで法律は一本も通らないという悪夢のような事態となるのである。今回の小沢秘書逮捕で民主党の検察・官僚に対する恨みは骨髄まで達しているだろうから、いよいよ妥協の余地のない完全対決となるであろう。だからこそ前首相・福田は民主党との大連立を提案したのだし、それが頓挫した後も何とか調整を図ろうとしていた。ところが麻生・漆間コンビには目の前しか見えないものだからこのような挙に出た。結局官僚は行き当たりばったりなのだ。この国を支配している官僚たちに不足しているのは、もっと基本的な大局観である。
 そう言えば、官僚トップである官房副長官西松建設事件にからんで「自民党に捜査が及ぶことはない」と言い、マスコミが一斉に報道した途端「記憶にない」「そのような趣旨のことは言っていない。誤解されたのでは」とシラを切った。どこか一社か二社だけが報じたのではなく各マスコミが一斉に報じたのに「誤解」なわけがないが、奇妙なことにマスコミはそれについて何の攻撃もしなかった。それは「誤報」を認めたことになる。では謝罪するのかと言えば謝罪はしなかった。つまりマスコミ側はこの件については口を塞ぐことにしたのである。警察庁出身の官房副長官がマスコミのスキャンダルを握っているからであろう。そうでなければ説明できない。そのようにして官僚はマスコミを操作する。そしてそのマスコミが発する言葉を我々は無条件に信じている。官僚支配の国の実態である。また「収賄も視野に入れている」だの「起訴内容を一部認めている」だのと当事者でしかわからないような情報が次々にリークされ派手な花火を打ち上げ続けて何とか小沢を辞任させようとする検察側の態度は痛々しく、その検察側の意図すらわからず右から左へ華々しく発表するマスコミを見て俺は時に笑いをこらえきれなかった。
 「企業は利益を欲する。だから企業献金はけしからん」とこの前新聞の社説に載っていたが、何度も言うように企業が利益を欲するのは当たり前で民主主義社会で企業が献金するのは当たり前である。所詮新聞記者ごときにグローバル経済の実態などわからぬのだ。果たしてこのような状況で「100年に一度の危機」を乗り越えることができるだろうか。未曾有の世界同時不況の中で、アメリカもロシアも中国もEUも皆日本の資産を狙っているというのに。