第5シリーズ 全てが終わり全てが始まる(9)BOOKOFF江戸川東小岩店

「はあ」
「俺は実力主義や。お前がやれ。細かいことは気にせんでいい。いくら資格持っとったって仕事できへん奴はできへんねん。お前が一番詳しいんやから、お前の好きなようにやったらええねん」
「いや、確かに俺は他の人よりは詳しいかもしれませんけどね、それは開発とか検証段階からやっとったから、成立過程を多少知ってるから詳しいだけで」
「だからお前が適任やろ。新○×△システムのことは誰に聞けばいいって言ったら、みんなお前って言うわけやろ。それやったらお前がしたらええんや」
 それなら給料を上げてください、20万前後の月給でそんな大それたことを背負わされたらたまりません、とは言えなかった。この非常時に雇ってもらえて東京で一人暮らしをさせてもらっているのだ。それに失敗したところで責任を問われるのは上の人達であって俺ではない。気楽にやればいい、ということで矛は収めた。こうしてサラリーマン劇場は展開されるのか。
 未曾有の大不況である。ニュースでは連日人員削減や賃金カットが叫ばれ、我が社でも当然その具体的な方法に着手し何とも慌しい雰囲気が続いている。それなのにコンプライアンスや株主への説明責任等で仕事量は増加し、当然これ以上の費用負担はできぬから限られた人員でさばかなければならない。もはや常態化した土曜出勤にせめてもの抵抗をと昼頃出社すれば上層部たちは重役会議にかける議案について打ち合わせをしていて、俺がいるにもかかわらず「生産ラインの停止」「早期退職の奨励」等の極めてシビアでヘビーな問題を口にしていた。40歳・50歳の大人たちの顔は不安で覆われており、その表情は「我々は生き延びることができるだろうか」と言っているようだった。
 果たしてこの非常時に俺に何ができるだろうか。ほどなくして彼らは別室で本格的な打ち合わせに入り、俺は広いオフィスでたった一人仕事をすることになった。直属の上司は風邪を引いて休みであり、結局ほとんどの仕事は片付かないまま17時半に会社を出た。俺は生き延びることができるだろうか、と呟いてみたが、電車内では相変わらず「女性の転職を応援!」「資格であなたのキャリアアップを!」といった明るい広告で彩られていた。
 それはそれとして休日は有意義に過ごさなければならないというわけで行く先は秋葉原である。今年に入ってはじめての秋葉原襲撃であるが今気付いたが明日から2月ではないか。本ブログはすっかり週1の更新が板についてしまったので時間を経つのが早い早い。まあ適当にやりましょう。しかし最近思うことですがもはや秋葉原も完全にメジャー化してしまいましたな。東京のいわゆる華やかなところというと新宿、渋谷、池袋というイメージがあるが、いよいよそこに秋葉原も仲間入りしたようである。まあ俺はラブコメを求めてここに来ているだけなのでそんなことはどうでもいいか。別に秋葉原でなくても三宮や明石や姫路で十分なのだ。

 いつものようにBOOKOFF秋葉原駅前店に行き、一人分の幅しかないエスカレーターに乗っていると坊主の男とブサイクな女が発情動物よろしく見つめあっていた。秋葉原のしかもBOOKOFFだぞおい。どうなっとるんだとわめき散らし、素晴らしき品揃えに口を開けて舌をダランと顎にまでさらして発情しながら買ったのはこちら。18時52分、350円。

ナナとカオル 1 (ジェッツコミックス)

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 店員が「350円になります。あっ、ポイントが12円分たまっておりますが、使いますか」と言ったので「はい」と言って350円を出したが、お釣りはなかった。俺の日頃の行いが悪いのか?
 その後セオリー通りメロンブックスとらのあなに行くわけです。まあ毎度毎度のことなので特に書くこともありまへんが、あれ、メロンブックスって見本誌なかったんでしたっけ。俺がいつも「メロンブックスで目星をつけて、とらのあなで買う」から怒ったのだろうか。しかしそれでは他に見るべきものもないので(今思い出しても「ふたりエッチ」の最新刊が出ていたことぐらいしか覚えていない)さっさととらのあなへ。

 いつものように成年コミックを買わなければならないということはごく一部の好事家たちの間で話題沸騰中のアレを是非買いたいのであるが、当然のことながら回収されたのかメロンブックスにもとらのあなにもなかった。いや別に俺は無修正だから何が何でも欲しいというわけではなく純粋に優れたラブコメかもしれないから欲しいのである。そう言えば昔風俗に行ってその女があまりにもブサイクなのでもうプレイはいいからオマンコというやつを見せてくれと言ったら向こうも相手しなくていいとわかってホッとしたのか奥まで拡げて見せてくれたなあ。特にグロテスクな感じはしなかったがとにかくそのピンク色が印象深くて(以下略)。で、買ったのはこちら。19時28分、1050億円。
ツンデロ (メガストアコミックスシリーズ No. 200)

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 うーん。いや、まだ読んでないんだけどね。見本誌読もうと思ったけど俺と同じような肥満体の面々が陣取っていて、しばらくしたら外人の女三人くらいがやってきてあの中央のラノベコーナーあたりでペチャクチャ英語で喋りだして(「ザッツトワイディスイングロピー?」「イヤズミークロスフワンディスクリーリーミー!ハ、ハ!」)、何かもういたたまれなくなってこれは表紙買いや俺のこの数々の修羅場を越えてきた円熟技を見せたれということで買ったんだがね。ちょっと危ない感じがするなあ。鬼畜凌辱強姦輪姦ホモレズサドマゾが一つか二つあるような気がして仕方ない(事実そうだった。さすがは俺である)。
 しかし仕事がうまくいかんからといってプライベートの休日の趣味の時間まで悪影響で云々かんぬんと甘っちょろいことを言ってもはじまらないので本日のメイン闘技場・BOOKOFF江戸川東小岩店へ行きましょう。最寄駅であるJR総武線小岩駅秋葉原から10分ほどであり、電車内ではホステスらしき着飾った女がガニ股で地図を広げ、その横に座った50過ぎの中年女は細い木の枝を持っていた。俺が小岩駅で下りようとするとその女二人も降りた。結局俺が乗った車両で下りたのは俺とその女二人だけだった。
 今回行くBOOKOFF江戸川東小岩店は駅から車で十分とかなり遠いところにあり、駅から南小岩方面に歩いて柴又街道に出るのであるが大体の方向感覚に従って地蔵通というところを通るとスナックやパブやヘルス等が立ち並ぶ歓楽街であった。呼び込みの男たちがお辞儀をしたり顔見知りのような笑顔を向けてきたが俺は「どうも」と言ってさっさと通り過ぎた。実はもう3ヶ月以上風俗に行ってないし行く気もしないのである。別にそろそろ結婚したいというわけではないが、いや結婚したくないというわけでもないが、まあそんなわけで歩いて「ニサン、フィリッヒンパブイカカテツガ」などと言われて「アキハバラ!」と叫び返したりして(意味がわからん)着きました。

 ふむ、悪くないね。広々として人もまばらだし土曜の夜にぴったりですな。しかしラブコメを買う気力もあまりないね。そんなことでどうするお前は世界のラブコメ王だろうという気持ちもわかるが、まあ今年もまだ1ヶ月だし年末のラブコメ大賞のことは特に意識しないという意識で上半期はやっていくつもりなので買ったのはこちら。21時1分、105円。
恐怖

恐怖

 ページ数が200ページにも満たないというのが気に入らんが、105円なら問題なしである。そういやこのおっさんもいい歳だがしぶといね。俺の方が先に死んでしまいそうだ。
 小岩駅まで戻る途中雨が本格的に降ってきて、傘がないのでコンビニを探すがあるのは一見客は入りづらいラーメン屋や居酒屋ばかりでありコンビニが見つかるまで走るはめになった。走りながら、昔同じように雨が降ってきて傘がなくてコンビニに入って、財布に84円しかなくて泣きそうになったことを思い出した。あれはいつの事だったか。2001年の経済恐慌の時か。いやそんなに昔ではない。2003年の今頃ではないか。ではたまたま財布にお金がなかっただけだったか。しかしあの時ほど自分が貧乏でお金がないことを骨身にしみて感じたことはない。コンビニに着いた頃にはもう小雨に戻っていて、結局俺は傘を買わなかった。小岩駅近くのイトーヨーカードの裏側にあるマクドナルドでてりやきマックバーガーとシェイクのバニラを頼んで待っているといかにも日雇い労働者ですというような60前後のみすぼらしい男が隣りのレジに来て無言でカップとレシートを店員に差し出した。「砂糖とミルクはどうしますか」と店員が言うと男は戸惑った様子で、ただ頷くばかりであった。俺はまた、生き延びることはできるだろうか、と呟いた。