- 作者: 別宮暖朗
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
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会社をズル休みした2008年7月1日の14時21分に三省堂書店神保町本店で840億円で買った本書は入門の名が示す通り「軍事と外交と政治」について平易に書かれたものである。自民党や民主党の器の小さい権力抗争だけ見てれば満足しているお前がそんな大層なもん読んでんじゃねえよとここでも格差が存在するが(勝ち組はやはり講談社エンタメ系ミステリ何とかを読んでるあいつらか?そうなのか?)、そんなことに遠慮しないのが田舎者の強さの秘訣ということにしよう。
とは言え本書は本当に軍事及び外交・政治についての初歩的な記述しかないのであって、もちろん俺はこと軍事についてはズブのブスの素人であるから役に立ったのであるが予定より早く読み進んでしまい時間調整をするハメになってしまった。あるいは表現が簡単過ぎてよくわからないところや9・11を「2002年」と書くなど一抹の不安もあったがアマチュア政治評論家として「軍事」について知るには本書はいい教材となった。
当たり前だが国際社会というのは善意で構成されているわけではない。いつ外敵が攻めてくるかわからないから国家は軍隊を持つ。軍隊とは国家によって組織された戦闘集団である。そして軍隊を持つと各国間に緊張関係が生まれ、同盟を組んだり外交交渉を仕掛けたりする。同盟国の要請や交渉が決裂して戦争となることがある。だが重要なことは戦争には多大なコストがかかるということである。植民地も然り。戦争となるとすぐその悲劇性が強調されるが、その経済性を鑑みれば戦争はそれほど脅威ではないのである。武器や食糧は言うに及ばず、衣服や仮設住居、車やトラックから膨大な庶務的備品にかかるコストは天文学的である。60年代の旧植民地国の独立はそのほとんどが宗主国が支出する駐兵経費が割に合わなくなって手放さざるを得なくなっただけだ。
むしろ作者が脅威と感じているのはテロやクーデター(及びそれを許容する思想)であり、共産主義やアル・カイーダ等イスラム原理主義派こそ糾弾されなければならないと主張する。特に共産主義というのは「共産党こそ労働者階級の利害を代表する唯一の政党だから、その共産党反対派は根絶する(殺害する)」ことを理の当然と考えているからとにかく血生臭く、スターリン粛清・文化大革命・カンボジア虐殺で何千万という人が虐殺されたのはご存知の通り。最近格差批判の影響で共産党が人気らしいが、これらの歴史を知らぬ阿呆がそれだけ多いということであろう。
またクーデターというものも眉唾ものであって、特に新興国においては軍人がクーデターを起こすことを容認する風潮があり、それではクーデターを起こして大統領になったらまた別の軍人がクーデターを起こすだけでちっとも安定しないわけである。韓国はいまだに伊藤博文を暗殺した安重根を独立の英雄として讃えているということだが、テロを肯定することはテロの連鎖を生むだけではないかという作者の危惧は非常に説得力に富むものがある。
そして国連についてほとんどその価値を認めていないのも本書の特徴である。国連の安全保障理事会は米・英・仏・ソ・中の利害渦巻く中で戦争を止めることはできず、ただ自国の外交手段やプロパガンダにのみ国連を利用するだけであった。そして聞いたこともない小国の1票が売買の対象となっているのは公然の秘密である。そもそも国連の決議があれば軍隊を派遣しなければいけないという考えは日本の軍隊は日本の首相がその統率権を持つことを否定することにもつながるのであり、このあたりは国連に甘い幻想を抱く日本人には耳が痛い話かもしれぬが避けて通れない議論ですな。
というわけで本書は大変勉強になりました。と言って「俺はどんな知識も吸収する真面目な読書青年でとにかくすごいのだから褒めてくれ」とか思っている俺の虚栄に満ちた行為をやめて全財産を何とかボランティア財団に寄付してさっさと死(以下略)。最近「俺は一生結婚せず孤独に生きるのだ」と思うことと「女連れて腕組んで歩きてえな」と思うことが半々です。そんなわけで2009年も色んな本を読んでいきますので宜しく。