SFアドベンチャー 1987年1月号[徳間書店]


 以前述べたように日本SFには「SFエリート」としてのSFマガジンがあり、「SF庶民」としてSFアドベンチャーがあるという双璧の時代が存在していたのである。と、俺が勝手に思っているだけであるがとにかく昔のSFマガジンというのは俺のような中途半端なSF読者からすれば敷居が高いのは事実である。翻って今のSFマガジンというのは全く興味がないのでよくわからんがライトノベルとかいう幼稚な新興勢力におべっかを使っている(ように見える)時点でエリートどころか阿呆となってこれまた俺には敷居が高い(低い)ので、結局俺はSFアドベンチャーのバックナンバーを古本屋で見つけた時のみSFファンの顔となるという、非常にわかりにくいことをしているわけである。これはもう現在のSF業界の怠慢であるということなのだがそんな事を言っても馬鹿にされるだけなので今度最新のSFマガジンを読んでみようとこれ前にも言ったか。
 6月21日17時58分に三宮の超書店MANYOで105銭という恐るべき低価格で買った(神保町では考えられないが、毎度毎度神保町批判をしてもしょうがないのでえーとお前が代わりに怒れ)本書は雑誌であるから当然連載作品等があって読みにくい面もあるが、何せ「SFでもって読者をとにかく楽しませる」パワーがほとばしっておるからぐいぐい引き込まれてしまうわけである。見所としては以下がある。
・第7回日本SF大賞発表=「笑い宇宙の旅芸人/かんべむさし
・大型連載=虚無回廊/小松左京、魔道神話/高千歩遥、新・日本SFこてん古典/横田順彌會津信吾
・その他短編=虚空の噴水/堀晃、銀河英雄伝説外伝/田中芳樹
 やはり雑誌の利点というのは「色々な作家の作品をつまみ食いできる」ことに尽きるのであって、そこから自分の「読書ジャンル」の新たな発掘、今まで聞いたこともない作家の素晴らしい作品と出会える可能性が大幅に拡大されるのである。俺はSFアドベンチャーを通して上記にもある「銀河英雄伝説」の存在を知ったし、他にも平井和正の「幻魔大戦」や眉村卓不定エスパー」といった今ではすっかり忘れ去られてしまったSF大作に出会うことができたのである。もちろん「忘れた」のは例えば本書刊行後まもなくやってきたバブルに浮かれた愚かな日本人であって、俺がどうしようが全く問題ないわけである。
 で、本書を読んだわけですがやはり連載作品というのはあらすじを読んでもさっぱりなので作品の雰囲気を味わうだけにしてもっぱら珠玉の短編作品を楽しむことにして動乱の「大破の季節」の夜を過ごしたのであります。お気に入りは軽いミステリー風を装いながら気が付けば異境SFの世界に入ってしまう「たわけた神/都築道夫」と、宇宙と進化と人間等といったテーマを追求する極めてオーソドックスなハードSF「虚空の噴水/堀晃」であるが、他にも先述した明治日本のSFをおっさん二人が談笑しながら紹介する「新・日本SFこてん古典」、日常にそっと忍び寄る怪奇現象を淡々と描くホラーSF「影踏み/西秋生」、そして忘れてはいけない宇宙を舞台にした大河歴史SF「銀河英雄伝説外伝」ととにかく濃密なSF世界が詰まっているのである。最近のSFもSFファンもよく知らん俺がいうのも何だが、完全に「浸透と拡散」した今こそこのようにとにかくSFでもって読者を楽しませようというエネルギーがあったらいいと思うのだが。