敵は分断せよ

 民主党代表選挙が小沢の無投票3選になり、相変わらず学級会レベルのマスコミが「議論を放棄するのか」「どこが民主党か。独裁党だ」と吠えるのを見て今更ながらゲンナリしたわけである。議論すれば現代日本の複雑な利害関係が解消してバラ色の未来が待っていると勘違いし、独裁党の本当の恐ろしさを知らずに「独裁党」と軽々しく言う者の品位を俺は激しく疑うが、肝心の自民党からあまりその種の批判を聞かないので怪訝に思っていたところすぐにその理由はつかめた。連立のパートナー・公明党の代表選も太田の無投票再選となることが決まっており、あまり「無投票」批判をすると今度は矛先が公明党に向かうかもしれないからである。何せあちらは結党以来一度も代表選というものをしていないのであり、もしかすると公明党サイドから自民党に「その種の批判はやめてくれ」とお願いをしたのかもしれない。
 基本的に野党の目標は政権を奪取することである。議論議論で与党と仲良くやっていたらいつまで経っても政権を握ることはできない。その点で参議院選挙で民意の承諾を得た小沢の下で政権交代に向けて突っ走ることに何ら不思議はない。最も代表選挙をすれば数十億円なみの宣伝効果があることも事実であり、だからこそ代表選をやるべきだと言うならば俺もなるほどと感心するが、民主党執行部は「今はそんな事をしている場合ではない。とにかく与党を攻撃して解散に追い込み一気呵成に政権奪取する」戦術を取ったわけである。これは自由で平等な議会制民主国家の政党として非常に真っ当な態度であろう。
 さて前回も少し書いたが、最近の政局で俺が注目しているのは公明党の動向である。どうやら自民党公明党の間で何か軋みが起きているように見受けられるのであって、臨時国会にしても自民党が8月下旬もしくは9月上旬を予定していたところを公明党が9月下旬を主張し結局9月中旬となったのは諸君ご存知の通りであるが、こんな事は9年の長きに渡る連立の歴史の中ではじめてなのである。どうして公明党は9月下旬を強硬に主張し、福田首相は妥協案として9月中旬を選択せざるを得なかったのか。そこに民主党の、自公分断工作が見えるのである。
 公明党が9月下旬を主張した理由は、表向きは来年1月で切れる「テロ特措法」の再議決ありきを想定したような自民党の「8月下旬」案では野党の反発を買うからであり、そもそも支持層(創価学会婦人部等)に根強い反発があるこの「テロ特措法」に公明党が再議決にやる気まんまんに見えると困るからである。更に年内あるいは年明けすぐの選挙を希望する公明党にとっては、国会に拘束される時間をできるだけ少なくして選挙運動に集中したいという計算もある。
 ただし俺が思うに、これだけでは自民党案に強硬に反対する理由とはならないはずである。どうして会期を短くしたかったのか。民主党が主張する、矢野絢也・元委員長の証人喚問を是が非でも阻止しなければならなかったからではないか。「国会に呼ばれれば、喜んでお受けする」と矢野は言い、参議院は野党が過半数を握っている…。これだけでも公明党にとっては悪夢であるのに、池田大作名誉会長まで呼ばれることがあれば公明党及び創価学会にとっては天変地異に等しき事態である。だからこそ公明党は会期を短くしたかったとしか思えない。あるいは既に民主党と水面下で裏取引をしているのかも知れぬ。「早期に解散総選挙」の一点では民・公とも一緒なのであり、もし自民党過半数を失い民主党過半数に届かなかったときの伏線を張っている可能性もあるのだ。
 古今東西を問わず、「敵を分断させる」ことは戦いの方法として古典的ながら非常に有効な手段である。特に参議院民主党は第一党ではあるが過半数を持たないという不安定状態が(たとえ衆議院過半数を握っても)このあと2年も続くのである。参議院選挙から一年が経ち、今まで水面下で行われてきた民主党の自公分断工作、自公の民主分断工作がジワリジワリとその姿を表してきたような気がしてならない。そのようにして政局は一刻の油断も許されず進行していくのである。