まぶらほ〜さらにメイドの巻〜/築地俊彦[富士見書房:富士見ファンタジア文庫]

 今や天下の糞阿呆にして天下の嫌われ者の第一人者と言われるのが俺である。なぜ俺のような極めて真面目で愚直な読書青年がそんな扱いを受けるのかというと俺が反ライトノベルス派の領袖だからである。いや俺はさ、別に君たちを阿呆扱いするつもりはないのであってね。好きな作家が筒井康隆とか夢野久作とか安部公房とか寺山修司とか言う高校生大学生がいたらおおそうかそうか良かったら俺の蔵書の中から何冊か持っていきなさい何これも一つの縁だから差し上げましょうとか言うと思うよ俺はね。でもねえ、ライトノベルスしか読んでないのに「趣味は読書」とか言われてもねえ。そりゃみんな何も言わんけどね。それはそういう勘違い野郎(つまり阿呆)が多い方が我々賢い人間にとって都合がいいから言わんだけでね。俺が何言ってるかわかるかなあ。わからんのだろうなあ。
 ということで8月2日に間抜けなBOOKOFF髪の毛店で105銭で買った(http://d.hatena.ne.jp/tarimo/20080802)本書についてであるが、言わずと知れた日本ラブコメ大賞2007第2位の大傑作でありすっかり名物となった両ヒロインの内に秘めたる狂気には他のライトノベルスなど赤子同然である。だから「僕はまぶらほの、特にメイド編が好きです」という高校生大学生がいたら池袋の風俗に連れていってやってもいいぐらいである。それにしても今回は前作・前々作に比べればミリタリー用語はそれほど飛び交っていないがそれでも肝心の戦闘シーンはよくわからないわけで、いや児島襄とかの戦記物なら何となくわかるんだが富士見ファンタジア文庫のようなお子ちゃまレーベルに突如このようなハイレベルな軍事戦記物を出されては調子が狂ってしまうのである。
 もう何度も繰り返し繰り返し述べているので繰り返すがラブコメの最大の魅力は「美人で聡明で社会的・経済的強者であるものごっつい女が冴えない平凡な男にぞっこん・ときめき・フォーリンラブ状態になる」ことであって、本作の両ヒロインのように炊事洗濯掃除完璧にして最強の女戦士(そしてもちろん絶世の美人)に惚れられるというのは大変気持ちの良いことなのである。またそれほどの強大な力を有していながらあくまで平凡な主人公を立てるところが俺のハートをがっちり捕らえて離さないではないか。この野郎また俺に自慰をさせる気か。
 と、書いたはいいがいかんせん本作はやりすぎの感が否めないのであって、我らが夕菜は我らがリーラに立ち向かうために急遽部隊を編成するのであるが、「悪党(=リーラ)と戦うにはそれ以上の悪党になるしかない」として何と刑務所収監中の人間を戦闘員としてスカウトするのである。それはもう殺人鬼やキチガイを。いや、まあ、いいんだけどね。結局人殺しするわけじゃないから(「リーラを倒したら、好きにしなさい」として寸前で止める)。しかしこれはもう作品のイメージを破壊する以外の何物でもないと思うんだがなあ。これじゃ夕菜もキチガイだ。それでこれを頭のゆるいゆとり中高生が読んだら何と思うだろうか。どん引きするならまだいいが、「かっこいい」とか何とか思うんじゃなかろうか。こういうのは違いのわかる大人が読んでこそ楽しめるのであって、やはり本作は富士見ファンタジア文庫のようなお子ちゃまレーベルではなく新書ノベルスで出した方がいいのではないかな。
 もちろん俺は違いのわかる大人だから(何せ高校生の頃から筒井康隆のブラックユーモアを読んでいたので)大いにこのキチガイぶりを楽しんだのであるが、「和樹さんのためならメイドを一人残らず殺す」とか「式森さまはただ命じて下さればいいのです。あとはお任せください」とか言うだけで肝心の主人公の出番がほとんどないので物足りなくもあった。とにかく続編に期待、というところですかな。
 ちなみに大体わかると思うが俺リーラ派ね。これ重要。