カラスヤサトシ/カラスヤサトシ[講談社:アフタヌーンKC]

カラスヤサトシ (アフタヌーンKC)

カラスヤサトシ (アフタヌーンKC)

カラスヤサトシ(2) (アフタヌーンKC)

カラスヤサトシ(2) (アフタヌーンKC)

 うっひょお。これは面白い。めっさおもろい。何やこのおもろさは。あまりにおもろいんで2週連続で買うてもうたわ。ラブコメ大怪獣地獄の政局忍者と言われるこの俺がハートをガッチリ掴まれてもうたわ。いやもうごっついわこれ。
 本書は作者と作者周辺について描かれたいわゆるエッセイ風四コマである。そして作者がオタクの冴えない30男であるからどこかで見たような漫画になるのかと思えばさにあらず、日々の何だかよくわからんが面白い出来事、面白くもためにもならないが誰かに話したい変な出来事や人、暇を持て余しついやってしまう阿呆らしい自分の行動、今となっては明らかにおかしいとわかる過去の恥ずかしい思い出などを冷静に(時に面白く、時にヤケクソ気味に)ツッコミながら笑いに転換させていく非常に高次元にして天才的ギャグ漫画なのである。ほのぼのと見せかけて鋭く、鋭いが優しく暖かい。江口寿史が時々描く滅茶苦茶面白いエッセイ漫画をオタク的にあるいは21世紀ひきこもり閉鎖型に昇華させたものと言えば少しは俺の言いたいことがわかるかな。
 一コマ一コマに所狭しと繰り出される作者のモノローグはとにかくこのわけのわからん世界を笑いで乗り切ってやろうという作者の意識の高さであり、それに見事に失敗した自分を更に笑いで塗り替えながら言い訳がましさや未練さを感じさせない冷静な描写は見事である。或いは世間一般でいう「オシャレ」や「スマート」や「カッコイイ」の極北にある自分を思う存分楽しんでやろうという、俺から言わせれば至極真っ当な「自己肯定」を前面に出すことで人々に勇気を与える素晴らしい漫画なのである。素晴らしい。「日本ラブコメ大賞2008」にノミネートしたいくらいだ。ラブコメというのは平凡な青年が主人公というただそれだけが条件なのであるから別にノミネートしてもいいのだがどう考えても本書にそのような色恋沙汰は起こり得ないので(と言ったら作者にネタにされるな)このように紹介した次第であります。
 ブログの普及によって人々の生活は「ネタ」化したと言われる。実生活で何か非日常なことが起こるとそれを電子空間に吐き出すのである。その結果人々は日々の生活を「ネタ」という何か虚構のもの非日常なもののようにとらえて自分の心の奥深くにその体験を刻み込むことはしなくなったというが、一方で「ネタ」化することで日々の辛いことや切ないことを積極的に笑いに転換させ毎日を楽しくさせるという一面も存在するのでありその好例が本書となろう。ただし「ネタ」化すると言ってもブログを持ってるだけの素人ではやはりただの愚痴や言い訳の垂れ流しでしかなく、時々面白い文章ができたとしてもそれはほんとにただの偶然に過ぎない。作者のような「ギャグのプロ」だけが日々をネタ化できるのだなあと本書を読んで痛感したものである。俺も一時期は「日本で一番面白い、それがラブコメ政治耳鳴全日記」などとほざいておったがいやはや汗顔の至りである。
 まだまだ言いたいことはあるが、読んでみればわかります。とにかく騙されたと思って読んでみよう。ちなみに本書で一番おもろいのはパラパラマンガである。最高。