白鳥殺人事件/内田康夫[光文社:光文社文庫]

白鳥殺人事件 (光文社文庫)

白鳥殺人事件 (光文社文庫)

 さて皆さん元気ですか。俺は元気です。25歳の男盛りでありますからあなたの家の近くにあるBOOKOFFや古本市場に行ってきます。しかしあれですか、普通の独身男性って休日はもっと友達とかと飲んだりするもんなのですか。俺の感覚では「友達」という言葉を使っていいのは小学生までのような気がするんだがなあ。「読書仲間」とか「同人誌のメンバー」とかいうのならわかるが、しかしそれもどういうもんなんでしょうなあ。ああオフ会というのもありますね。あれもどんなんかさっぱり想像つかんが、興味はあるなあ。
 などとまずは当たり障りない話をして本書である。忘れもしない2007年11月24日の「新潟無計画ウォーキング雨のアレ」にてBOOKOFF新潟古町5番町店で買ったものである(http://d.hatena.ne.jp/tarimo/20071217)。どうして新潟に行ったのかわからんしどうして本書を買ったのかわからんが時々俺はそういうことをやります。何を言うその方が阿呆くさくて俺らしいではないか。何でもかんでも明確な理由に則って行動することの何が楽しいか。俺は天衣無縫なのだ。
 内田康夫浅見光彦、旅情ミステリーとそれぞれ名前はどこかで聞いたことがあるが読むのは今回がはじめてである。そして俺が大の推理小説嫌いであることは国会会議録にも載っているわけであるから作者も相当気を遣ったと見えて読んでいて退屈はしなかった。眉間に皺を寄せるような純文学でも難解なハードSFでもない「さらりと読める小説」の典型のような作品であるが、事件の謎への引っ張り方やクライマックスの動と静が一本の線になったような静謐な緊張感などは作者の非凡さを印象づけさせた。
 何より気に入ったのは主人公である浅見光彦ルポライター兼私立探偵が警察庁刑事局長の弟であり、いわゆる「兄の七光り」によって捜査に協力または主導するという展開方法である。これは現実でもありえる話であって、いやありえるわけはないのだがとにかく警察というのは官僚主義権威主義の権化であるからそのような事もあるかもしれないのである。少なくとも俺が蛇蝎の如く嫌う「警察と縁もゆかりもない私立探偵及び私立探偵もどきが警察の捜査に加わり警察もそれに何の疑いも抱かずそれを読む糞スイーツ女も何の疑いも抱かない」糞推理小説よりは100億倍マシなのである。しかも本作ではその私立探偵に強力しようとする刑事が「素人の言うことに、プロの刑事が惑わされてどうするか」と上司に怒られたりもするのである。それが普通であって、そういう普通の感覚を持つ作者を俺は大いに気に入ったわけである。世の中には刑事が事件現場に猫を連れてきたあげく関係者に「ああ、この猫かい。ホームズっていうんだよ」などと言わせる驚愕のキチガイ推理小説が跋扈するのだが、やはり普通が一番ですな。
 また本書では事件の舞台が新潟からはじまって東京を挟んで岐阜、大阪の高槻市と日本各地に散らばり、それぞれの観光名所を紹介するのかと思ったらやれ名神高速道路だ東名高速を何々インターで下りるだの細かい移動方法を書いたりしてそっちの方がよっぽど印象に残ったものである。もちろんそちらの方が作品のリアルさがより増すというもので俺は好感を持ったのであるが、さっきからちと褒めすぎかね。まあたまにはこういうものを読むのもいいですな。だから読書はやめられない。