爆笑結婚5 さらば長き居眠り

註:「爆笑結婚」シリーズは、本日記最初期である2005年2月から3月にかけて毎週水曜日に掲載されたものです。最新作である本編を読む前に御一読下さい。
   
「もしもし」
「はい」
「○○さんですね」
「はい」
「わたくし、東京都結婚対策調整課お見合いプロジェクトチームの者ですが」
「はあ」
「実はですね、恐らく通知はもうしていると思うのですが」
「…」
「この度ですね、東京都主催のお見合いパーティーにですね」
「辞退します」
「いえ、これはですね、正当な理由なく拒否されることは」
「仕事が忙しくてねえ」
「失礼ですが○○さんのお勤め先は一部上場企業ですね」
「ええ、まあ」
「一部上場企業にお勤めの方は原則今回の我々の趣旨に協力してもらうよう、東証経団連の方からも」
「そんなこと言われてもねえ。協力はしたいですがねえ」
「では、是非」
「まあ仕事のね、状況というのを見てですね、改めて連絡はしますよ」
「お願い致します。若い女性がいっぱい来ますよ」
「はあ」
    
「もしもし」
「…」
「○○さんですか」
「…はい」
「東京都結婚対策調整課お見合いプロジェクトチームの者です」
「あの、よく考えたら何で俺の電話番号知ってるんですか」
「私達には参加者とコンタクトを取るためのある程度の権限は認められておりますので」
「ほう」
「それでですね、先日のお見合いパーティーについては」
「ええ、やはり仕事の都合がですね、どうも合わなくてですね」
「しかしですね、このパーティーは法律上の義務でもありまして」
「それはもちろん法律は遵守しなければならないでしょうけどね、仕事もあるしね、結婚もしたくないですからね」
「美人がいっぱいいますよ」
「…それはその、知ったこっちゃないですがね」
「お仕事に関しましては、例えば都の人間が上司様とご相談させていただくという手もありますが」
「いや、そんな事されるとね、俺の立場が悪くなるでしょうが。わかるでしょう、それくらい」
「ええ、でも…」
「他を当たればいいでしょう。他に結婚したい男ならいくらでも」
「いえ、この制度は厳正な籤によって選定されておりますので、原則代わりというものはきかないんです」
「そんなこと言ってもその中の誰かと必ず結婚しなければならないというのはねえ。女の方も嫌でしょう。俺みたいなブサイクな」
「そんなことはないでしょう。皆さん飢えた、いえ内面を見て判断される発情した、いえ聡明な方ばかりですよ」
「ブサイクであることを否定せんのですな」
「…」
「…」
「…ええと、とにかく一度、お勤め先にお邪魔を」
「いや、だからそういう事をされるとね、非常に困ります。ただでさえ社内の評判が良くないのに」
「しかし」
「とにかく俺は行きません。それでは」
    
「もしもし。こちら結婚対策調整課です」
「あの、○○と申しますが」
「はい」
「その、いつもそちらから俺のところに電話をかけてくる人がいるんですが。女の方で。ちょっとその方を…」
「ああ、少しお待ち下さい」
「…」
「もしもし。参加ありがとうございます」
「いや参加はしません」
「でもこうして電話をかけてくださるのは、やはり参加に心傾いておられるのでは」
「いや、あのね、その」
「はい」
「どうして俺のメールアドレスまで知ってるんですか」
「それはもう、私達には参加者とコンタクトを取るためのある程度の権限は認められておりますので」
「いや、それ納得いかんなあ」
「はい」
「…で、何ですかこのメールは」
「ご案内です」
「…ええと、ずいぶんとこれはこの、大胆といいますか、扇情的といいますか」
「まあ、童貞の方には目の毒かもしれませんね」
「…」
「…」
「…あの、まさかそれもある程度の権限とかでご存知なんですか」
「それはまあ、私達には仕事上守秘義務というものがありますので」
「人の秘密暴いといて何が守秘義務ですか」
「当日はスーツ着用でお願いします」
「話を聞いてください。俺は行かんよ」
「しかしお勤め先の方はご理解いただいて」
「それは会社としては認めなきゃいかんでしょうけどね、こっちとしては使いたくもない有休使わないといけないんでね」
「ああ、ではその点を再度お勤め先に」
「いやいやもう会社に連絡するのは勘弁してくれって」
「2日間でじっくりと選んでいただければ」
「大体ね、これ女性に失礼でしょう。男5人で女15人で、男が女を指名して女に拒否権はないというのは」
「こうでもしないと男性の皆さんは参加されないので。それに参加される女性の皆さんは自分が一番きれいだから必ず自分が指名されると勘違いされて、いやとにかく大丈夫です」
「…しかしですねえ」
「確かにあなたは彼女いない歴イコール年齢ですから、不安になるのもわかります」
「だからなぜそういうことを知っとるのだ」
彼女いない歴24年」
「やかましい」
「社会人になって2〜3ヶ月に一回は五反田のヘルスに行くので別に彼女がいなくても大丈夫だとあなたは思われるでしょうが」
「だ、か、ら、なんでそういうことを」
「お見合いパーティーだって風俗みたいなものですよ」
「知らんがな」
「何なら私が今から筆下ろしに」
「あんた狂っとるのか」
「いいでしょう。私が今からあなたの家に行きます。何を隠そう私も今回のお見合いパーティーの出席者の一人です。是非私を指名してください」
「は。あんた何を言って。もしもし。もしもし。一体どうなっとるのだ。何がお見合いパーティーだこれではまるで欲求不満な女性のはけ口ではないか。前回から2年、これが萌えと二次元文化により隅に追いやられた女性群のなれの果てなのか。だが俺にどうしろというのだ。俺はまだ二次元と風俗だけでいいのだ。それは間違ったこと…か?」