海軍よもやま物語/小林孝裕[光人社]

海軍よもやま物語 (1980年)

海軍よもやま物語 (1980年)

 

  軍人になるのであればやはり、「無敵の大日本帝国海軍」がいい。何が無敵かはさて置いて、世は軍国主義華やかなりし大日本帝国の時代であり、畏れ多くも大元帥陛下を頂点にした組織の一員となって奉公する事ができるのだ。かっこいいではないか。もちろん戦地に赴いて命を失う事になるかもしれないが、そこは血気盛んな男達であるから怖いものなどない。それにイギリス海軍を参考にして作られた帝国海軍はドイツ陸軍を参考にした帝国陸軍と違って紳士的・ハイカラ・オシャレであり、10代後半から20代前半の男達にとっては憧れでもあった。軍人となって国家に奉公でき、生まれ故郷でもてはやされ、町で一、二を争う別嬪にも恵まれるのであるから、海軍万歳海軍万歳なのだ。

 とは言え当事者からすれば無敵の大日本帝国海軍様もそんなにいいものではなかった。なぜかと言うと殴られしごかれるからで、「集合が遅い」「掃除がなっとらん」「年上への礼儀がなっとらん」「最近たるんどる」と理由を見つけては教官又は班長に殴られたり尻を殴られたり重いものを持たされたり、飛行服に落下傘をつけたまま飛行場一周させられたりするのである。何せ軍隊であるから上から下への命令は絶対で、しかしこちらが何かミスしたのならあきらめもつくが、「ゴキ悪い」(=ご機嫌がかんばしくない、虫の居所が悪い)からという理由で「貴様ら、食事抜きだっ」などと言われてはたまらない。

 しかし新兵になれば「月給6円50銭、住み込み、食事付き、被服支給」である。貧乏にあえぐ戦前日本の庶民達にとって大変魅力的で、有給休暇がなくても大した問題ではない。大体、我々庶民は栄えある帝国海軍の一員になれたとしても海軍兵学校卒業の士官候補生のエリートに使われる運命なのであり、大日本帝国の行く末を案じたところでしょうがない…というより案じる暇がない。艦隊に配置された三等兵には来る日も来る日も掃除が待っている。残飯整理から始まって油拭い、床掃除、後片付けを艦内くまなく行うのである。何せ食うところも寝るところも戦争するところも全てが艦内であり、常に清潔にしておかなくてはならない。このようにして海軍生活が始まる。さてどうなる事やら。

     

・海軍士官になるには海軍兵学校を卒業すればいいのだが、そう誰でも兵学校へ入るというわけにはいかない。大部分の海軍軍人は、四等水兵から始めてだんだんと進級し、まあせいぜい准士官から少、中尉まで出世するわけだ。四等兵6ヶ月、三等兵1年、二等兵も同じく1年、そして、一等兵を1年6ヶ月勤めれば下士官である。兵隊の進級はただの進級だが、下士官以上になると、進級する事を任官と言った。(中略)任官は各鎮守府長官の名において行われた。

・大体兵学校出というのは、修身ばかり習ったと見えて、我々下士官、兵には何の妥協点もない。(中略)言うなれば、規格通りの人間である。勝つ事、我慢する事、しか教えられなかった人間にとって、伝統ある下士官、兵の心と通じ合う生活など見た事もないだろうし、たとえ見たとしても全てが規格外であり、不潔であり、癪の種であったのかもしれない。あくまでも支配者であった。

・部隊内、艦内で火急の事故が起こり、状況判断の後、ラッパが鳴り響いてすぐに「待て」の号令がかかる。この時はそのままの姿勢で待つのが原則である。そして、次の指示を固唾を飲んで待つわけである。足を上げた者、手を動かしている者、走っている者、食事をしている者全てが、問答無用、動いてはいけない。ちょうどテレビの画面が止まったような格好でいなくてはならない。

・上陸とは、目的が何であろうと、文字通り艦から陸上へ移る事である。軍艦が港に入ると、よほどの事がない限り上陸が許される。(中略)こうして上陸した者が、淋しい病気を頂いて帰る事もあり、頭に来た上司は、上陸員全員に予防器具の携帯を義務づけた。うら若い三等兵までも持たされたものである。

・兵隊はとにかく風呂が好きである。一日中汗まみれで働くのだから、いやでも風呂好きにならざるを得ない。しかし、艦内では真水は貴重品であり、大勢が入るので時間にも制限があったから、入浴というよりは行水、それも烏の行水である。(中略)そこへゆくと上陸した街の銭湯なら、好きなだけ湯水を使い、好きなだけ長湯をしても、誰にも文句を言われないから天国のようなものである。

 そんな銭湯で、戦友と一緒に背中を流し合った後、湯上りの一時に星空を見上げて雑談していた。

「ああ、いい気分だ。二番目にいい気分だ」

「なんだ、二番目とは」

「そこまで言わせたいのか、こいつ」

 上陸すると、まず二番目にいい気分を味わった後、経済が許せば、一番目にいい気分を味わいに行くのが、昔の兵隊の通り相場だった。

・海軍の水泳は、特殊な者を除いては、スピードは要求しなかった。楽に浮く事、長い時間泳げる事、他人を救助する方法に重点を置いた。荒海の真ん中で早く泳いで何になるか。長く浮いて救助を待て、といった論法である。

・陸軍では、上級者に対しては、必ず「殿」をつけて呼んだ。「兵長殿」「大尉殿」という具合である。ところが、海軍では「殿」という呼び方は全く使わなかった。士官、下士官に対しては、階級の上下にかかわらず「○○中尉」「○○兵槽」などと呼ぶ。兵隊が大将を呼ぶ時も「○○大将」である。

 また、陸軍では自らの事を「自分」と言うが、海軍では「私」と言った。

・戦前の軍艦は、日曜・祭日には乗組員の家族・友人などが艦内まで面会に行く事が許された。一つは肉親との対面という人道的な親心、もう一つは、精鋭を誇る艦隊のPRでもあったようである。

神戸、夜の首相官邸、熊本、蒲郡、姫路

2018年12月~

   

   

  • ツイッターを見て唐突に思い出したんですが、俺、中学の時に生徒会に入ってましてね、当時はいじめが社会問題になってたんで、生徒会が率先して「いじめをなくそう」とか何とかやってたんですが、その生徒会内部で俺はいじめられてましたからね、 posted at 23:10:12
  • その時のいじめは、感覚としては「いじめはいけない、やめよう。でも俺はキモいから、いじめてもいい」という感じだったかなと。 まあ世の中そんなもんだろうと思ってますが、中学卒業してから、同窓会的なものを含め、中学時代については一切の関係を断ち切ったね。 posted at 23:17:32

   

      

  • 丸一日かけて50冊以上の本を整理して、1冊も本を読んでいない事に気づいた。2018年冬。 posted at 16:51:16
  • こんばんは、独断と偏見と自分勝手な評価基準を一方的に押し付ける狂気の世界・日本ラブコメ大賞2018はまず一般部門編15位から11位まで発表となりました(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2018/12/…)。 君はこの狂気の世界に耐えられるか? そして俺は来週までに1位まで書く事ができるか?(やばいかもしれん…) posted at 23:01:27

     

      

    

      

  • ようやく秋クールの「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない」の1、2話を見る(もう12月下旬…)。作画崩壊…と言えばまあ作画崩壊なのだろうが、「ロストユニバース」のヤシガニ回をリアルタイムで見た俺からすれば許容範囲ですかな。いまだにあれを超える作画崩壊を見た事がないのでね。 posted at 21:25:17
  • そう言えばアニメ好きの新入社員にその話をしたら「え、○○さん、ロストユニバースヤシガニ回、リアルタイムで見てたんですか、すげー」と言われた。そうか今の23歳の人にとっちゃ伝説みたいなもんか。あの時俺は15歳、今は35歳、こういう風にして人は年を取っていくのですねえ…。 posted at 21:30:00
  • そんな事言ったって「モテない男の願望漫画」が読みたいんだろう、でも恥ずかしくて言えないんだろう。よろしい、その恥ずかしさは俺が引き受けるという事で日本ラブコメ大賞2018、10位から1位まで書きました(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2018/12/…)。ああ疲れた、熊本なんて行くからだ…次はエロ漫画編か。 posted at 22:00:07

     

  • うわっ、17時で直帰できる事になってしまった。 クリスマスプレゼント? posted at 16:00:55
  • というわけでその1・古書現世(「文献継承」もゲットした)。勤め帰りに古本屋、やっぱりサラリーマンは最高? pic.twitter.com/ZFcfa6CXwF posted at 21:03:00
  • その2・メロンブックス池袋店(なぜ早稲田から池袋に移動したかは俺が聞きたい)。勤め帰りにエロ同人誌、やっぱりサラリーマンは最高? pic.twitter.com/S6F7G5WHoE posted at 21:07:37

      

  • そんなわけでエロ漫画を愛しラブコメを愛する皆さんおはようございます、日本ラブコメ大賞2018後半戦・エロ漫画編を載せました(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2018/12/…)。 一方的な評価基準を一方的に押し付ける、この狂気の世界に君は耐えられるか? そして俺は今から18きっぷで故郷に帰れるのか?(眠い…) posted at 07:54:35
  • @gosplan1019 や、こんばんは。 そう言って頂けると励みになります。 2018年もgosplanさんのレビューをだいぶ活用させてもらいました。 来年もエロ漫画がどうのこうのと盛大に騒ぎたいものです。 posted at 21:10:08
  • @gosplan1019 NOエロ漫画 NO LIFE posted at 21:21:05
  • 日本全国どこでも古本屋本屋それがラブコメ政治耳鳴全日記・その1・ブックオフ蒲郡旭町店(眠い、寒い、「がまごおり」いつ聞いても強烈な名前ですなあ、寒い) pic.twitter.com/DcD2ey0Ra5 posted at 23:04:00
  • 日本全国どこでも古本屋本屋それがラブコメ政治耳鳴全日記・その2・とらのあな名古屋店(NOエロ漫画 NO LIFE) pic.twitter.com/YQIw0Knhr6 posted at 23:08:15

      

  • おはようございます。 pic.twitter.com/BKGr4C3FDI posted at 08:32:04
  • @shomotsubugyo そうね、俺が「本を買い過ぎて、置き場所に困っている」って言っても、20代以下の大抵の人は「何で電子書籍にしないんですか」って言いますからねえ。 だから40代50代の人の方が話が合うもんねえ… posted at 09:01:51
  • @shomotsubugyo ここだけの話ですが…トランクルームを大きくしました(0.4畳→0.6畳) posted at 09:59:38
  • @yasuo__n お、いいですね。 小生も18きっぷで岐阜〜米原〜経由で兵庫県に戻ってきまして、早速古本屋です。 posted at 12:32:48
  • 実家に着きまして、老父母の使いで珍しく車を運転しているんですが、車のラジオから山下達郎の声が聞こえて、更に「竹内まりやと年忘れ夫婦対談…」とか言っているので「?!?」となりました。 世の中色々ですなあ…。 posted at 14:47:47
  • @spongeff 日本全国どこでも行くんですが、名古屋はやっぱり交通の便がいいですからねえ posted at 18:57:02
  • 山下達郎竹内まりやって夫婦だったのか(ウィキペディアで確認)。知らなかった… posted at 19:59:56
  • 会社での話。 新入社員とか新人の相手をもう7〜8年ぐらいしているんですが、結構いるのが、年末年始に地元で過ごして、1月4日になってまた社会人生活再開…のはずが元気がなくて、しばらくして「会社辞めたい」と言い出すパターンでして、2年に1人くらいそういう人が出るわけですが、 posted at 21:16:11
  • 話を聞いてみると「学生の頃はわけのわからんおっさんおばさんの相手をしなくても良かった」「学生の頃の自分は輝いていたけど今の自分は下っ端で全然輝いていない」という現実に嫌気がさして、「会社を辞めればこの現実がなくなる」から辞めたい、という事なので、 posted at 21:24:28
  • 俺はまず「会社を辞めるのは一向に構わない。君の自由だ」と言って、でも「働く限りいつかはわけのわからんおっさんおばさんの相手をしないといけない」「別の会社に入ってもそこでまた君は下っ端だ」と言うと、大体落ち着くんです。 posted at 21:31:22
  • 何でこんな事言っているかというと、そうやって説得した4年前の新人社員(男)と2年前の新人社員(女)から「来年結婚します」というメールが来たからでして…。 ふざけるなこの野郎、どっちも辞めさせとけばよかったわい。 posted at 21:39:24
  • @shomotsubugyo まあ、実際は俺の上司とか、人事部の人とかも説得にあたっていましたからね。 あと、明日はコミケ頑張って下さい posted at 23:22:23
  • @gosplan1019 よそさまとの乖離と言っても、俺のところほどではないでしょうから大丈夫ですよ posted at 23:26:24

    

  • 故郷へ戻る途中(各務原〜岐阜〜大垣〜米原〜)で古本屋・その1・ブックワン セルバ甲南山手店(兵庫県には古本市場よりもブックオフよりも強力なブックワンがあるのだ pic.twitter.com/cLW4kA0gSo posted at 01:14:12
  • 故郷へ戻った後(甲南山手〜三宮〜実家〜姫路)も古本屋・その2・おひさまゆうびん舎(2回目の訪問だというのに迷ってしまった…) pic.twitter.com/fdSMq1sq9Y posted at 01:20:53
  • 故郷へ戻った後も古本屋・その3・ブックオフ姫路増位店(日本ラブコメ大賞2018が終わったので日本ラブコメ大賞2019のために) pic.twitter.com/L9TYnO7SCO posted at 01:23:17
  • @shomotsubugyo おつかれさんでした。 posted at 16:48:00
  • まあ何と言っても今年はですね、3月に突如として3000以上のリツイート・いいねをもらった「定年退職の人に聞いた〜」騒ぎもあって、ツイッターというのがいかにすごいものか再認識した年でした。 posted at 22:36:13
  • とは言うものの、ツイッターは第2ブログでしかないという考えは変わってないんで(「別館」やしな)来年こそはブログの方を真面目にやっていかなあかんなあと思ってますが、それはそれとして、 posted at 22:46:02
  • 世の中には俺よりもひどい古本病、積読病、その他本に対する異常な情熱を抱く人が大勢いる事がわかって安心しました。 2019年もあなたの街の近くの本屋古本屋図書館に行きますので宜しくお願い致します。 posted at 22:52:09

2019冬:冴えが違う

 そんなわけで皆さん調子はどうですか。お元気ですか。そもそも生きてますか。もう死んでしまいましたか。罪を犯して服役しましたか。大丈夫ですか。俺の方は大丈夫ではありませんがとりあえず死んでませんし罪も犯しておりません(猥褻物何とかは所持しております)。しかしこのまま何事もなく過ぎて行くとは思えません、必ずや試練が俺に降りかかる、おお神よ。

 話がそれましたが最近「ラブコメ政治耳鳴全日記」で検索するとまずツイッターが出てくるようになりました。まあ更新頻度を考えたら当たり前なんですが、しかしツイッターはあくまで「別館」でありまして、こちらが本館であります。この本館は2005年に始まりましてもう14年の月日が経ちました。2005年は俺にとって第二の人生が始まった年でもありまして、この年の1月に本ブログを立ち上げ、4月に就職と同時に東京へと移り住み、6月に「永神秋門攻防戦」は始まって、兵庫県糞田舎で鬱屈した人生を送るはずだった俺の人生は花開いたわけですが、それから14年が経ってまだ東京にいるとは思わなかった、お気楽にのほほんと働いてラブコメ・政治・その他の趣味に全力投球して人生を謳歌するはずがいつの間にか管理職にさせられ支店・工場・子会社には「本社のえらいさん」と陰でこそこそ言われる身になってしまった。おかしいおかしい、俺こそ地方の片田舎で「本社のえらいさん」について気楽に愚痴を言う側の人間のはずだ、なぜこうなったのだ、これが試練か、おお神よ。

 またしても話がそれたが今や全国各地でインフルエンザが大流行で我が社も無縁ではない、1か月前から部長→課長→副部長→(他部署の)部長、という風に順繰りにインフルエンザで倒れる人が続出で、もちろんインフルエンザであるから薬を飲んで熱が下がればいいというわけではなく3~5日は強制的に会社を休まなければならず、それは大変魅力的なものだ、3日も休みがあればあの本もこの本も一気に読んでしまえ、そう言えば俺も何となく頭が重いような熱っぽいような…と思いつついつものように昨日は22時過ぎまで残業して、退社して家に帰る途中に定食屋で「ざるそばとミニカレー」セットを食べて、家に帰って風呂に入って歯磨きをして寝たのであり、朝7時頃に起きて体温を測ったところ35.9度といつもの平熱であった。おお神よ。

 話がそれた、いやそれはもういいか、とにかく今日は休みで明日も休み、おお連休ではないか神よ、久し振りの連休なのだ、そうであれば2018年には結局できなかった「永神秋門攻防戦」をそろそろやろうではないか、俺は「世界のラブコメ王」であり「18きっぷで本屋古本屋図書館巡りをする変なおっさん」であり「幼稚な書評、というか下手な文章を書くアホなおっさん」であるが、「一日で永田町・神保町・秋葉原門前仲町を自転車で駆け回るキチガイ」が本当の姿なのだ、やはり老いてもファイティングスピリットを忘れてはならない、風を切り空を飛び火を放ち水を浴び土に還るのだ、それこそが「永神秋門攻防戦2019」だ…というわけで俺が晴海通りを北上すれば銀座も日比谷も警視庁も国会議事堂も阿鼻叫喚、人々は恐ろしい形相の俺を見て(寒いからね)一目散に逃げ出し、やがて開かれる国会図書館の扉。

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 もちろん国会図書館には1~2ヶ月に1回の割合で来ているが「永神秋門攻防戦」の一環での国会図書館は何か違うものを感じる、それは俺の意気込みが違うからだ、人々は恐ろしい形相の俺を見て(醜いからね)逃げ出し、俺は悠々とトイレに入って小便をして手を洗ってマスクを取ってうがいをして(インフルエンザ予防…いや予防したらあかんがな)、6階の食堂に入ってまずは昼飯で図書館カレー。

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 うーん。ご飯と肉と紅ショウガの組み合わせがよろしいので気が付けばご飯が半分以上なくなってしまっていたのでカレーのルーがかなり余ってしまった。お前アホとちゃうかというわけでいつものように新館3階の新聞資料室に移動、今日の日付にちなんで22年前の1997年の毎日新聞を読んでみよう。昭和もいいが平成もいい、現在も未来も辛い、優しいのは昔だけだ。

   

<2月1日(土)>

・1面で「オウム真理教破防法適用せず」。

・橋本首相、今日フジモリ・ペルー大統領と首脳会談。「ペルー政府とゲリラの直接交渉」を早期に開始するよう要求する方向。

松本智津夫被告出席による第24回公判。東京地裁104号「教祖の法廷」全記録。

<2月2日(日)>

・橋本首相とフジモリ大統領がカナダ・トロントで首脳会談。テロに屈せず、事件の平和的解決と人質の全面解決に一層努力する事を確認。

<2月3日(月)>

シラク・仏大統領とエリツィン・露大統領が首脳会談。シラク大統領、ロシアがNATO拡大に反対している事について「ロシアの懸念には理解」。

ホワイトハウス主催のコーヒーパーティーに詐欺事件で有罪判決を受けていた人物が正体されていた事が判明。ホワイトハウスは「不適切だった」と謝りを認めた。

<2月4日(火)>

・オレンジ共済事件で、東京地検特捜部は新進党に捜査協力を要請。友部議員が1995年参議院議員選挙比例代表名簿の順位を引き上げるため、複数の新進党幹部に金品を配った疑惑で。

   

 結局2月5日まで読んだところで時間が来たので後はパラパラと頁をめくっていると我が社の名前が目に入ってきた。全くもう、こんなところまでついてくるつもりか、油断も隙もない、俺は既にハーレムを築いているのだ(意味不明)というわけで新館の1階または2階の角にあるフカフカのソファーでゆったり読書…もいいが14年も同じ事を続けるのはさすがに無理があるので本館へ引き返して、第一閲覧室に入って真面目に調べ物というかコツコツとノートに会社のあれとこれについて書きためる事にしよう。いやあ、やっぱり長い事会社にいるとしがらみというかね、できてしまいますわなあ…。

 とは言え長々と滞在しては次の神保町秋葉原を爆破できなくなるので16時の館内放送「即日複写の受付は…」が流れたところで縋る女を振り切って国会図書館を出て、うう寒い、よく考えたら長い「永神秋門攻防戦」の歴史の中でも真冬の2月にやった事はないのではないか、しかしまあ来週はまた実家に帰省するしなあ、その次の週もそのまた次の週も出張の関係で前泊せなあかんしなあ、長い事会社にいるとしがらみがね…というわけで愛(自転)車「クイーン・ウィルコム」を走らせて轟音をとどろかせて最高裁判所・皇居・大英帝国大使館・靖国神社を通って登り坂で転び下り坂でも転んで傷ついて神保町へと向かいます。次の天皇は俺だ。

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 神保町に着いて、靖国通りの「共栄堂」がある方の通りから書泉グランデの方の通りの横断歩道を自転車でチンタラ移動していると目の前の小太りのおっさんがわざとらしく「チッ」と舌打ちをしたのでこちらもわざとらしく「ああん」と言ってやって、三省堂書店と「はるやま」の間の位置に愛(自転)車「クイーン・ウィルコム」を休ませて世界一の古本屋街を闊歩しよう、まずは小宮山書店だ。

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 ん?「3冊どれでも500円」は見えるが…「1冊100円」のやつはどこに行った…ああこっちか、移動したんかいな…でいつものように物色、やはり「永神秋門」での神保町だと気の入り方が違う、のほほんと18きっぷに乗ってのほほんと古本まつりに行くのとは違うのだ、それが「永神秋門攻防戦」そしてラブコメ政治耳鳴全日記、俺もお前もラブコメ政治耳鳴全日記。 

少女探偵は帝都を駆ける (講談社ノベルス)

少女探偵は帝都を駆ける (講談社ノベルス)

 

 で、今までは「小宮山書店・ブックス@ワンダー・古書モール(古書かんたんむ)」に行っとればよかったわけですが古書モールはなくなってしまったので今までの何となくの時間配分ではいかんわけですが、まあそのあたりはね、俺も14年の実績、35年の人生経験と女遊び(この前、検査したら陰性でした。良かった良かった)があるので心配はいりませんよ…というわけで軽快に靖国通り沿いの店を冷やかしたり見入ったりして、とりあえず矢口書店でも買う事にしよう。

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 ↑は、左が矢口書店で買ったもの(100円)、右がブックス@ワンダーで買ったもの(324円)です。

 続いてブックス@ワンダー。ここはもう鉄板ですな。

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 時刻は17時を既に過ぎて陽も傾いてきたが本棚の上にある電球電灯は光る気配がないので仕方なく恐るべき形相で物色して、結局中に入って、あんまり2階には行きたくないんやけどなあ、喫茶店みたいな感じになっとるしなあ、落ち着いて本見られへんしなあ、でもSFマガジンSFアドベンチャーがあったなあ…で2階に上がって、テーブルとイスがあっても客は一人もいないのでSFマガジンやらSFアドベンチャーやらミステリマガジンやらが固まっている箇所の前に立って物色、やはり「永神秋門」の時の俺は冴えが違う、今までの古本生活の中でSFアドベンチャーの何年何月号を買って、何年何月号を買っていなかったのか全く覚えていないので鞄からメモ帳を取り出して確認するのであった。

 さて時刻も17時半をとうに過ぎてしまった、ここ神保町を18時に出て秋葉原に向かうルールなので(どうしてそんなルールなのかは俺が聞きたい)今度は裏側のさくら通りを通って三省堂書店方面へ移動して、なるほど11月で「古書モール(古書かんたんむ)」は閉店して今や跡形もなくなってしまった。人の世の常ですなあ…。

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 しかしながら俺は攻防戦の最中なので三省堂書店前の自動販売機でコーヒーを買い、飲み、三省堂書店に入って2階のトイレでそのコーヒーもろとも小便として出して、10分ほどブラブラと店内をうろついていると18時となったので愛(自転)車「クイーン・ウィルコム」は主人の元へとやって来た、そら来た、攻防戦のメインである秋葉原だ、靖国通りを東に、ちょうど都営新宿線の上を走るように電車よりも早いスピードが出せるのは俺が新天皇だからだ、ずいぶんとまあ滅茶苦茶だが世の中の大半は滅茶苦茶なのだ、砂上楼閣たるラブコメであっても構わんのだそれがラブコメ政治耳鳴全日記だ、欲望渦巻く秋葉原だ。

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 いつもの場所に自転車を置いて、今や完全に鬼神となった俺を恐れてある人は道を開け、ある人は我関せずを決め込み、その他大部分の人が…何やあれは、中国人の集団か?先頭に旗を持っている人がいて…はあ秋葉原に観光ですか、まあせいぜいエロを堪能されるがよいですよというわけでまずはとらのあな

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 地下1階に下りて、えーと先々週はとらのあな立川店に行ったんだったな、更に前だととらのあな宇都宮店とメロンブックス宇都宮店に行ったわな、日本ラブコメ大賞2019は今年もやらなあかんわな、ライフワークですからな…というわけで見本誌を読んで、勃起して、見本誌を読んで、勃起して、とりあえずこちらを買おう。

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

 ここでのスケジュールですが19時半~20時頃には秋葉原を発たなければなりません。日本有数の観光地である秋葉原にそんな短時間しかいないのは全く贅沢な話なのですが、「永神秋門」の時の俺は冴えが違う、鞄に買った本を押し込んで、自転車を運転して光よりも速く移動するものですから疲れてきた、これはもう長くいればいるほど疲れてくる事が長年の経験で俺にはわかるのであるというわけでメロンブックス

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 この階段の横にあるクレーンゲーム機械の前で50歳前後と思われる白髪のおっさんがお目当ての人形が取れなかったのかわざとらしく「チッ」と舌打ちをしたので俺はまた「ああん」と言ってやって、さて日本ラブコメ大賞2019のために物色、俺は戦うために生きてきたのだ(意味不明)というわけでこちらを買おう。

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

 日本ラブコメ大賞成年編2017の1位の実績がある作者の、日本ラブコメ大賞2019の大本命であります。

 で、これで終わると思ったら大間違い、続いてブックオフへと移動すれば人々は俺を恐れてある人は道を開け、ある人は我関せずを決め込み、その他大部分の人が…はて今頃気付いたがマスクをしていないがどこへ行ったのだ、ポケットにもない、いやそもそもいつからマスクをしていないのだ、国会図書館でマスクを取ってうがいをしたのは覚えているが…よしこのまま風邪をひきインフルエンザに直行だ、なに「永神秋門攻防戦」はもう大成功間違い無しなのだからな。

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 「都内最大級!」「6階建て!」のポジティブな謳い文句はともかく、狭い上にやたらと空気が乾燥しているというか何か嫌な感じやなあ、こんなところにずっとおったらそれこそ風邪ひいてしまうわい…と思いつつ品揃えの方はまあ文句なし、先々週の立川店に勝るとも劣らない、いやあ目移りしちゃうねえ、日本ラブコメ大賞2019やねえ、世界のラブコメ王やねえ。

 

宇崎ちゃんは遊びたい! 1 (ドラゴンコミックスエイジ)

宇崎ちゃんは遊びたい! 1 (ドラゴンコミックスエイジ)

 

 秋葉原も順調に終える事ができたか、やはり今日の俺は冴えが違う、ここまで買った本を鞄にギュウギュウ押し込んで結構重くなって肩が痛くなってきたか、さすが35歳もうすぐ36歳だ…というわけで任務完了すればすぐにその場を離れよう、去る者は追わず(意味不明)。神田駅~三越前を爆走して日本橋で急カーブで周囲の建物は無残に壊れたものの気にせず永代通り永代橋を更に爆走で今や暴走、そしていつもならブックオフに行く前に中華料理屋に入るところだが別に腹が空いているわけでもなし、というか昨日も会社の上司先輩と中華料理屋に行ったしなあというわけで一目散にブックオフ江東門前仲町店。

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 やあ、やっぱりこういう街中にポツンとあるブックオフが一番落ち着くというか俺に合ってるね、庶民派だね、しかしそれは庶民に愛されたいだけで本当に庶民の中で生活したいわけではないのだ、自分だけは贅沢したいし庶民を犠牲にしても自分だけがスポットライトを浴びたいだけなのだ、所詮人間は良く思われたいのだ、悪役などまっぴら御免なのだ…と話題が会社の事になりそうなのでとりあえずこれを買おう。 

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

 

  さてこれで「永神秋門攻防戦2019」も俺の大勝利となった事がここまで読んだ諸君にはおわかりのことであろう。やはりラブコメ政治耳鳴全日記とはツイッターではなくこのブログがメインなのであり、このブログのメインは「脱走と追跡の読書遍歴」でも「日本ラブコメ大賞」でもなくこの「永神秋門攻防戦」なのだ、というわけで俺はまだまだやるぞ、ようやく腹も空いてきたのでマクドで最近はまっているフルーリーと共にまた会いましょうごきげんよう

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筒井書店、俺は播磨人、札幌

2018年11月~

  • 昨日の神戸の古本祭りでの3冊。 そう、俺は播磨人、ガラは悪いし気も荒い、そのくせ鷹揚で呑気…。 pic.twitter.com/f6BTopHh7b posted at 00:24:03
  • 新入社員の教育とか相手とかをもう7〜8年くらいやっているとよくわかるんですが、やっぱり若ければ若いほど本に対する執着心というか愛着がないんですね。 と言っても電子書籍とかの事じゃなくて、今はコンビニコミックとか復刻版とかで、 posted at 14:12:14
  • 「昔の名作」「幻の名作」がすぐに手に入るので、俺みたいにわざわざ古本市に行って、わざわざ汚いボロボロの本を買うのがもう、理解できないらしいです。 あと、ブックオフとか古本屋に本を売るのもね、俺らくらいまでは「もう売ってしまったら(手放してしまったら)二度とこの本は読めない」 posted at 14:18:10
  • っていう恐怖みたいな感情に襲われるわけですけど、それも理解できなくて、「そんなわけないでしょ、こんなに図書館とかブックオフがあるんだから、どこでも読もうと思えば読めるでしょう」って言われて、ああそういうもんかと思ったりしましたね。 posted at 14:24:53
  • @shomotsubugyo 確かにねえ、便利なんですけどねえ…。 それで大丈夫って割り切る事もできなくてねえ、まあ…今からまた古本屋に行くけどね。 posted at 16:04:44
  • 故郷から東京へ戻る途中も悪行三昧・その1・一色文庫(100円棚がいい本ばかりで困った) pic.twitter.com/4iWl9r1D0J posted at 22:36:51
  • 故郷から東京へ戻る途中も悪行三昧・その2・メロンブックス大阪日本橋店(一色文庫さんから歩いた、足が痛くなった pic.twitter.com/uhPW6uUbKF posted at 22:40:11
  • 会社での話。 残業も厭わず、周りへの気遣いを怠らず、且つ嫌われ者も引き受けてくれた人がいて、その人は気さくな人だったので俺は親しみをこめて「おっさん」と呼んでいたんですが、その人は定年が近づいてくると「俺は定年(60歳)になったらすっぱり(会社を)辞める」と言ってまして、 posted at 23:39:17
  • 宣言通り60歳になってすっぱりと辞めたのが1年半前で、最後に飲みに行った時に「これからは趣味の釣りをとことんやれる」と言っていたのが印象に残ってまして、ところがこの「おっさん」は3か月ほど前に急性の心筋梗塞で亡くなっていた、というのを昨日知りました。 posted at 23:43:57
  • それを聞いて何がびっくりしたって、4か月前、つまり亡くなる1か月前に、俺はそのおっさんとその他数人で軽く昼食を共にしたんですが、その時は少し痩せたかなあという程度で、全く何にも変わってなかったんですね。しかもその時「今は週1~2で釣りに行っている」って嬉しそうに言ってたんですよ posted at 23:48:05
  • で、そのおっさんは結構古い考えの人というか、「若い頃は嫌な仕事やしんどい仕事もやるべきだ」とか言う人でして、「好きな事とかやりたい事があるなら、それは大事に自分の中にしまっておいて、今は与えられた仕事を一生懸命やれ」って言っていたのも思い出しました。 posted at 23:53:44
  • だから、まあ、そんな事言うんだったらもっと長生きして、5年でも10年でも釣りばっかりしてくれやおっさん、残された俺らはたまらんで、という感じですが、世の中そんなもんと言えばそんなもんなんかなあ…と。 posted at 23:59:41

気弱な芸能記者/ケヴィン・オールマン[早川書房:ハヤカワ文庫HM]

気弱な芸能記者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

気弱な芸能記者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  誰しも一度はジャーナリストになりたいと思った事があるはずだ。世の中はめまぐるしく動き変化の連続である、その変化に時に追いつき時に追い越し、問題点をえぐり出し、未来に向けて提言をし、弱者に寄り添い、巨大な組織と巨大な悪にたった一人で立ち向かうジャーナリストとなって、光り輝くような人生を送ってみたい。しかし世の中はそううまくはいかない。本作の主人公は肩書きこそジャーナリストだが担当は芸能全般で、コラム「タキシードを着て夢のパーティ」を受け持ってはいるが、所詮は虚業の世界であるから29歳にもなればややうんざり、いや、かなりうんざりしている。とは言えこの仕事はそれほど悪くはない。「嫌いとは言えない仕事をして、何とか生活できるのだから、恵まれている方かもしれない」のであり、「ブルース・ウィルスがにやけた笑いを1回見せるだけで普通の教師が一生かかっても稼げないほどのギャラをもらう事に責任すら感じる」が、そういう時は小難しい時事雑誌やお堅い小説を読んで気を楽にすればよい。

 とりあえずは「80になる女性が29歳に、12歳の少女が29歳に見られようとやっきになる」世界であっても、「有名人がプールで泳いでいるところを撮影される場合、メイクに4時間はかける」世界であっても、「娼婦と家出娘は視聴率調査会が番組のランキングを行うのになくてはならない存在で、放送局はこぞって、路上で客引きをする売春婦についてお決まりの扇情的なレポートをする」世界であってもいいのである、いつかは憧れるジャーナリストになれるはずである、浮浪者と言われる事は慣れているのである。人と深く関わりたくない主人公にとってはバイセクシャルの彼女とつかず離れずの関係の方がいいのである。落ち込んだ時は「カラマーゾフの兄弟」を読む事にしているのである…という愛すべき主人公芸能記者君はネタ探しに「ハリウッド女性協会」の受賞パーティーに出席する(ネタ探しでもなければそんなものに出席しない)のであり、ミステリーのお約束に則って受賞者の死体の第一発見者となり、第一発見者の特権として遺書らしきメモを手に入れ、被害者が単なる自殺なのか自殺に見せた他殺なのか真相を追うことになるが、もちろん主人公芸能記者君は単なる芸能記者であるから、できる事と言えば関係者(被害者の夫、同僚、仕事上のパートナー、通っていた心療内科の医者)から話を聞き出すことだけで、そこでズバッと事件を解決できればいいがやや不自然な点があるだけで自殺は自殺でしかないのであった。大体関係者へのインタビューも「留守電マラソン」状態であって、おんぼろアパートの家賃は払えず、バイセクシャル彼女から金を借りる事で二人の関係は不安なものに変わってしまうのであった。もう真相を追う事などやめて「リビドーが旺盛なマリブの高校生達を主役にした夜の娯楽ドラマに出演中の32歳の女優」の伝記を書くか健康保険も預金もない貧しいパーティーめぐりの芸能記者生活に戻るかと逡巡しているうちに事件の糸口が掴めるのであった。と言っても被害者が浮気していたからそれがどうなのだ、女ってのはイカれているのだ、もううんざりだ、大人になりきれない10代の若者のように生きる事がうんざりで、自分の人生にうんざりなのだ。

 とは言え事件は解決する。もちろん主人公の努力と苦労と情熱によって解決するのではない。少しは主人公も努力し、苦労し、解決に貢献はしただろうが、ほとんどは成り行きであった。だから人生はうんざりなのだ。夢溢れる華やかなアメリカの芸能界を見てきた主人公芸能記者君が言うのだから人生はうんざりなのだろう。しかし1年に1度は必ずアカデミー賞の授賞式がある。「世界中の人々がアカデミー賞の行方を、まるで人生の一大事のように知りたがっている」が、「それが彼らの人生とどう関わっているか」はわからない。「現場にいる私(主人公芸能記者君)にすら、この催しが自分の人生とどう関わっているのかがわからずにいる」のである。それでも芸能記者君はしばらくは華の芸能界で生き続ける、読者もまた華の現実社会で生き続ける。いつしか主人公芸能記者君と読者の姿は重なる。幻想に満ちたショーが終わり、本物の夜が始まるであろう。